研究課題/領域番号 |
20K16040
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
柴田 海斗 信州大学, 医学部附属病院, 薬剤師 (00857055)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | セツキシマブ / 血清中濃度 / がん悪液質 / 炎症性サイトカイン / アルブミン / 全身倦怠感 / 頭頸部がん / 糖鎖修飾 |
研究実績の概要 |
抗ヒト上皮成長因子受容体(EGFR)抗体薬のセツキシマブを用いたがん化学療法において、抗腫瘍効果の不十分な患者や重篤な有害作用を伴う患者が一定数存在する。がん悪液質の病態では、炎症性サイトカインの活性化によってタンパク質の異化や糖代謝が変化しており、セツキシマブもその影響を受ける可能性がある。また、がん悪液質は骨格筋量の減少や精神神経症状を引き起こすことで、セツキシマブに対する忍容性を低下させる可能性がある。本研究では、がん悪液質の病態に着目して、頭頸部がん患者におけるセツキシマブの血中動態および糖鎖修飾と臨床効果を解析し、それらに及ぼす患者背景の影響を明らかにすることを目的としている。 令和4年度において、頭頸部がん患者における血清中セツキシマブ濃度、悪液質の進行度、悪液質関連マーカー及び臨床症状の関係性について詳細な解析を行った。その結果、悪液質が進行したGlasgow Prognostic Score(GPS)2及び不応性悪液質の患者では、GPS0と前悪液質の患者に比べて、それぞれ血清中セツキシマブ濃度が低い値を示した。また、血清中セツキシマブ濃度は、IL-6濃度と負の相関を示し、アルブミン濃度と正の相関を示した。臨床症状に関して、Grade 2以上の倦怠感を有する患者では、Grade 1以下の患者に比べて血清中IL-6濃度が上昇し、アルブミン濃度が低下した。その一方で、セツキシマブ濃度と倦怠感との間に関連性は認められず、せん妄の発現に関しても、セツキシマブ濃度、IL-6濃度及び悪液質の進行度とは関連しなかった。 ヒト血中セツキシマブのN型糖鎖構造解析法の新規確立に関しては、所属研究機関の異動後であったため、蛋白消化実験を行うための実験設備と質量分析計による分析環境を準備し、次年度での前処理方法・分析条件検討を行うための研究体制を整えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
臨床試験の実施に関して、異動後の研究機関において、異動前の研究機関(主任施設)との多施設共同研究を可能とする倫理審査上の申請手続きを行い、各研究機関の倫理委員会での承認を得ている。臨床試験の進捗に関して、患者登録と臨床検体は主任施設において十分な数が確保できている。令和4年度では、主任施設から提供された匿名化が施されたデータ(血液生化学検査値、有害事象の発現状況、治療効果の判定、血液検体から得られた測定値など)や研究結果を用いて、各種統計解析を行い、論文執筆を実施しており、その点においては進捗状況はおおむね順調である。 一方で、ヒト血中セツキシマブのN型糖鎖構造解析法の確立については、異動直後の実験施設は蛋白消化実験・機器分析を行うための環境・設備が十分ではなく、それらの準備が必要であった。蛋白消化実験を行うための基本的な試薬・機器の購入に加えて、実験施設が保有している質量分析計のセットアップ作業などに時間を要し、糖鎖構造解析の確立のための前処理方法・分析条件検討を十分に行うことができなかった。次年度での研究体制を整えることができたものの、進捗状況についてはやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、血清中セツキシマブ濃度、悪液質の進行度、悪液質関連マーカー及び臨床症状の関係解析については、臨床症状の重症化に関する多変量解析の追加やそれに関係するカットオフ値算出のためのROC曲線解析の追加を行う。現時点の研究成果については論文として早期にまとめ、がんの専門英文誌への論文投稿を行う。 血中セツキシマブのN型糖鎖構造解析法の確立に関して、異動後の研究機関において、新たな環境・設備・機器にて前処理方法および分析条件の検討を行う。タンパク消化方法については、汎用性の高いタンパク消化法である還元アルキル化・トリプシン処理に変更し、低分子のフラグメントを生成することで、定性かつ定量的に優れたペプチドマップ測定を行う。確立したN型糖鎖構造解析法に対しては、各バリエーションを実施する。その後、N型糖鎖構造解析法を用いて臨床検体におけるセツキシマブの糖鎖修飾を評価し、その血中動態および臨床効果との関連性について解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属研究機関の異動に伴い、実験計画・研究計画が変更となり、当初計上していた物品費などの経費の実支出が予定よりも少なかったことが次年度使用額が生じた理由として挙げられる。一方で、ELISAキットなどでの測定に必要な吸光光度計(FCベーシック吸光マイクロ)の購入として
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