研究課題/領域番号 |
20K16053
|
研究機関 | 高崎健康福祉大学 |
研究代表者 |
溝井 健太 高崎健康福祉大学, 薬学部, 助手 (70849546)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 薬物-生体内基質間相互作用 / P-糖タンパク質 / アンドロゲン / 中枢作動薬 |
研究実績の概要 |
P-糖タンパク質 (P-gp) は、基質薬物や生体内基質を細胞外や体外に排出するトランスポーターであり、血液脳関門 (BBB) にも発現している。P-gpを介した薬物相互作用は知られているものの、薬物-生体内基質間相互作用 (drug-endogenous-substrate interaction, DEI) に関する知見は乏しく、その臨床的な可能性や影響は明らかではない。これまでに申請者はアンドロゲンであるテストステロンやアンドロステンジオンがP-gpの生体内基質であることを見出しており、P-gpを介した相互作用によって、アンドロゲンの体内動態が変化する可能性を提示した。本研究ではP-gp基質薬物や生体内基質の中枢移行性に対するDEIの影響を検討し、P-gpを介したDEIが臨床上において起こり得るか否かを明らかにすることを目的とした。令和2年度は、いくつかの中枢作動薬はアンドロゲンとP-gpを介したDEIを起こし得ることを明らかにした。 令和3年度は、ラットBBB kitを用いた薬物輸送試験が実験動物における薬物の中枢移行性を反映し得るか、また、P-gpを介した相互作用を起こし得る薬物はBBB上においてもアンドロゲンとDEIを起こすか否かを検討した。その結果、中枢作動薬を含むいくつかの薬物は、BBB上においてもアンドロゲンとP-gpを介したDEIを起こすことが明らかとなった。また、DEIは生体内でも起こり得る可能性が示唆された。本研究は、DEIがP-gp基質薬物あるいは生体内基質の体内動態に影響を及ぼす可能性を示すものであり、特にそれらの中枢移行性に関わる新しい知見であると考えられた。なお、本研究成果は日本薬物動態学会第36回年会 (令和3年11月、オンライン) および日本薬学会第142年会 (令和4年3月、オンライン) において発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は、①ラットBBB kitを用いた薬物輸送試験が実験動物における薬物の中枢移行性を反映し得るか、②P-gpを介した相互作用を起こし得る薬物はBBB上においてもアンドロゲンとDEIを起こすか否かを検討することを計画した。はじめに①について、既報よりラットにおける薬物の脳組織/血液中濃度比 (Kp) を収集した。そのいくつかの薬物について、ラットBBB kit (ファーマコセル) を用いた薬物輸送試験をおこない、透過係数比 (ER) を算出した。これらについて相関解析をおこなったところ、2倍の予測誤差の範囲内に収束した。したがって、ラットBBB kitを用いた輸送試験は、ラットの中枢移行性を反映する可能性が示唆された。続いて②について、ラットBBB kitを用いたアンドロゲンの輸送試験をおこなった。その結果、アンドロゲンのERは約1.5を示した。これは脳側から血液側方向への透過係数の方が、その反対方向への透過係数よりも大きいため、アンドロゲンの中枢移行性はBBBによって制限されていることを意味している。また、中枢作動薬を含むいくつかの薬物が存在するとき、アンドロゲンのERは約1.0に近づく結果を示した。したがって、これは脳側から血液側方向への透過係数とその反対方向への透過係数の差が無くなったことを意味しているため、これらの薬物によるP-gp阻害によって、アンドロゲンの中枢移行性が亢進することが示唆された。 以上の検討より、中枢作動薬を含むいくつかの薬物は、BBB上においてもアンドロゲンとP-gpを介したDEIを起こすことが明らかとなった。また、DEIは生体内でも起こり得る可能性が示唆された。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、実験動物を用いて、DEIがアンドロゲンあるいは被験薬物の体内動態に影響を及ぼすか否かを検討する。ラットに被験薬物を投与後、血漿中および脳組織中のアンドロゲンあるいは被験薬物濃度をLC-MS/MSにより定量することで、それらの脳組織移行性を評価する。これにより、P-gpを介したDEIによってアンドロゲンあるいは被験薬物の脳内濃度が上昇するかを明らかにする。さらに、このDEIがP-gpを介したものであるかを評価するために、P-gpノックアウト動物 (Mdr1a/1b欠損ラット、ENVIGO社) を用いて、被験薬物を投与後、血漿中および脳組織中のアンドロゲンあるいは被験薬物濃度を測定する。また、これらの脳内濃度の上昇による生体への影響を評価するために、P-gpノックアウト動物あるいは脳室内へカニュレーションを施したラット (日本チャールス・リバー) にアンドロゲンあるいは被験薬物を投与する。投与後の行動をオープンフィールド試験等により24時間程度観察することで、異常行動が誘発されるかなどの中枢性作用を評価する。 ヒト血中において血漿タンパク質非結合形の薬物濃度が、実際の膜透過 (組織分布) に関与する。そのため最後に、被験薬物の臨床において想定される血漿中濃度およびタンパク結合率を調査し、in vitroおよびin vivo試験より観察されたアンドロゲンと当該薬物とのP-gpを介したDEIが、実際に臨床上において起こり得るか否かを考察する。
|