本研究では、血中バンコマイシン濃度を測定した成人患者を対象とし、非線形混合効果モデルNONMEMを使用して、標準糸球体濾過量(eGFR)を共変量とした母集団薬物動態解析を行った。得られた薬物動態パラメータからバンコマイシン必要量を算出し、バンコマイシンの最適な投与スケジュール算出の方法を検討した。 母集団薬物動態解析によって得られた薬物動態パラメータの標準eGFRに掛かる偏回帰係数は、共変量に推定Ccrを用いた際に得られる偏回帰係数を考慮すると相応な値であり、標準eGFRは共変量として機能すると考えられた。また、良好な内的および外的妥当性を得た。しかしながら、比較的大きな切片および個体間変動が残されたことから、薬物動態モデルは改善の余地があると考えられた。 研究期間中に、バンコマイシン投与設計のための国内ガイドラインが改訂され、eGFRに基づいた投与設計とCcrに基づいた投与設計の二重規範と解釈される状況が発生した。本研究結果からは、母集団薬物動態パラメータ自体はCcrを共変量としたパラしメータが上回るが、ノモグラム化した投与設計では標準eGRFRに基づいたものも機能すると判断された。 結論として、標準eGFRを使用した母集団薬物動態パラメータはバンコマイシン投与設計に有用な可能性はあるが、現時点では推定Ccrを使用したパラメータの方が有用であるとした。また投与設計のガイドライン等では、両者の混在が無いよう使用の推奨を一本化することが望ましいと考えられた。本研究結果は、日本薬学会第143年会にて発表した。
|