研究課題/領域番号 |
20K16056
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
野口 幸希 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 助教 (10803661)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | トランスポーター / メチルマロン酸 / 近位尿細管 / 有機アニオン |
研究実績の概要 |
メチルマロン酸は、メチルマロニルCoAからスクシニルCoAへの変換酵素の活性低下または欠損によって産生される、有機酸代謝物である。メチルマロン酸は近位尿細管における腎毒性の原因となり、その尿中排泄過程には再吸収および分泌機構が予測される。メチルマロン酸の尿細管への取り込みに関与するトランスポーターを明らかにすることを目的として、2020年度はラット腎尿細管上皮の刷子縁膜小胞を介した輸送の特性を評価した。ラット腎刷子縁膜小胞へのメチルマロン酸の取り込みは、時間依存的に上昇し、小胞外液からナトリウムイオンを除くことで、その取り込みは約30%に減少した。よって、尿細管刷子縁におけるメチルマロン酸の取り込みには、ナトリウム依存性トランスポーターの関与が示された。また、小胞外液から塩化物イオンを除くことによって、腎刷子縁膜小胞へのメチルマロン酸取り込みがわずかではあるものの有意に上昇し、オーバーシュート現象が示された。よって、メチルマロン酸の尿細管刷子縁膜を介した輸送には、一部に塩化物イオンとの交換輸送機構もはたらくことが示唆された。これらの実験から、メチルマロン酸の近位尿細管への再吸収機構においては、特にナトリウム依存性トランスポーターに着目した解析が必要であることが示されたことから、近位尿細管刷子縁膜に発現するナトリウム-クエン酸共輸送体であるNaDC1の発現ベクターを作成し、それを導入した過剰発現細胞を用いてメチルマロン酸の輸送を検討した。しかし、NaDC1を介したメチルマロン酸の取り込みは示されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ラット近位尿細管刷子縁膜ベシクルを介したメチルマロン酸の輸送にナトリウム依存性の輸送体が関与することを明らかにでき、2020年度の到達目標は大方達成できた。また、2020年度は夏まで実験が制限される事態であったが、秋以降は一部予定を変更し、2021年度実施予定であったラット腎スライスを用いた取り込み実験や誘導体化メチルマロン酸のLC-MS/MSでの測定にも着手し始めており、着実に研究を進められている。一方、腎におけるメチルマロン酸輸送に関与する分子実態の同定については検討ができていないことから、2021年度に解析を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後、尿細管刷子縁膜および基底細胞膜におけるメチルマロン酸輸送の阻害剤および輸送分子の実態について解明していく必要がある。NaDC1以外のナトリウム依存性トランスポーターについて、基質認識を検討し、阻害剤が腎刷子縁膜小胞へのメチルマロン酸取り込みに与える影響について解析する。尿細管上皮の基底細胞膜に発現するOAT1についてはメチルマロン酸に対する基質認識が示されていることから、OAT1阻害剤が腎スライスにおけるメチルマロン酸取り込みに与える影響も解析する。これらの解析を通じて、近位尿細管へのメチルマロン酸蓄積に特に影響の大きい標的トランスポーターを見出す。並行して、ラット腎、血漿、および尿中メチルマロン酸濃度の測定法を確立し、標的トランスポーターおよび作用化合物の選択後に行う動物での実証実験に、スムーズに移行できるよう検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は学会開催が誌上またはオンライン開催となり、旅費が不要であった。また、一部実験計画を変更し、2021年度に予定していた実験を行ったが、特に質量分析において予想より順調に実験を遂行することができ、カラムや試薬の購入費が抑えられた。2021年度は増額となるが、動物へのメチルマロン酸投与も計画しており、当初の注射による単回投与から浸透圧ポンプを使用しての持続投与する計画に変更したため、動物実験にかかる費用を増額予定である。また、2021年度実施予定の作用薬物の探索においては、使用する薬剤を拡大して阻害効果を探索することによって、標的トランスポーターへの選択性、親和性および臨床適応性のより高い化合物を見出すこととする。また、メチルマロン酸を輸送するトランスポーターについて、発現細胞での親和性解析も必要になったことから、それらの解析費用も必要となる。2021年度も実地での学会参加は困難であると予測されることから、旅費に計上していた額も含めて消耗品に充て、実験の充実を図る予定である。
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