研究課題/領域番号 |
20K16058
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
伊藤 雅隆 東邦大学, 薬学部, 助教 (30792410)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 苦味マスキング / 放出制御 / 物理薬剤学 / 製剤学 / 処方設計 / 経口固形医薬品 / 添加剤 / ポリマー |
研究実績の概要 |
本研究では、苦味を持つ モデル医薬品としてアセトアミノフェン(APAP)を用いた。APAPを用いた理由としては、苦味閾値が 10.8 mg/10 mLと判明しており、評価が容易であることや水溶性であるため口腔内で苦味を示す薬物モデルとして適していたからである。マスキング粒子を調製するための医薬品添加物は、まずカルメロース(カルボキシメチルセルロース:CMC)とメグルミン(MEG)を用いた。 カルメロースナトリウム(CMC-Na)、クロスカルメロースナトリウム(CCMC-Na)、カルメロースカルシウム(CMC-Ca)といったCMC塩を用いて行った。続いて、CMCの膨潤をより促進する添加剤をスクリーニングするため、MEGの替わりにD-マンニトール(D-man)、クエン酸三ナトリウム(TC)、L-リシン(Lys)、L-アルギニン(Arg)、L-ヒスチジン(His)、水酸化ナトリウム(NaOH)を用いて行った。塩基性の化合物を多く選択した。ただし、D-manはMEGと化学構造が類似しているが、アミンを持たないため塩基性を持たない。他にCMC及びMEGを利用して作成条件の検討も実施した。 CMC塩の検討ではCMC-Naを用いた場合のみマスキング効果が得られた。CMC-Naは他の塩よりも水溶性が高いため効果的であったと考えられる。また、添加剤をスクリーニングした結果、NaOHの場合のみマスキング効果が得られた。マスキング効果を得るためには塩基性であるだけでなく、CMCと水溶性の塩を形成する必要があると考えられた。作成条件はMEGを精製水に溶解し、続いてCMCを溶解させ、減圧乾燥した。この粉体が最も効果的であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は苦味マスキングにおけるCMCの適切な塩形態およびMEGの役割について検討し、理解を深めた。当初の計画通り、初年度はCMC及びMEGが最も効果的に原薬をマスキング可能な条件やより効果的な添加剤がないか検討した。 本年度に判明したことは次の通りである。①CMCは水溶性の塩を使用することでマスキング効果を発揮する②塩のカウンターイオンはMEG及びNaの場合に効果があった③CMCとMEGの減圧乾燥により得られた粉体を原薬と混合した場合が最も効果的であった。 ①では添加剤として医薬品に用いられている複数のCMC塩を原薬と混合してマスキング効果を簡易的な溶出試験により評価した。簡易的な溶出試験は、シリンジに試料を採取し37℃の溶出試験第2液(JP2)を10 mL加え、30秒間に10回転倒混和した。その後直ちに試験液をフィルターでろ過した。ろ液を吸光度測定し、原薬濃度を求めた。この濃度と原薬の苦味閾値 10.8 mg/10 mLと比較しマスキングの程度を評価した。 ②はCMCに対してMEGの替わりにクエン酸ナトリウム、L-アルギニン、L-リシン、L-ヒスチジン、水酸化ナトリウム(NaOH)及びD-マンニトールを試した結果、MEG及びNaOHの場合にマスキング効果が見られた。恐らく、CMCと塩を形成するものかつ、水溶性の塩ができる場合にマスキング効果が発揮されると考えられる。 ③では原薬をどの時点で混合するか検討し、方法Ⅰ:CMCをMEG水溶液に溶解し減圧乾燥させて得た粉末と原薬を混合する方法と、方法Ⅱ:原薬とCMCをMEG水溶液に溶解し減圧乾燥させる方法を試したところほとんど差がなかった。そのため、利便性と原薬の安定性を考慮して方法Ⅰを採用することとした。上記のように本年度はCMCがマスキング効果を充分に発揮できる条件を検討し、充分な成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の検討事項を下記に示す。①精製水の量の検討:CMCとMEGを溶解するために用いている精製水だが、量を変更することで最終的に調製される粉体にどのような影響があるか確かめる必要がある。製造コストを考えると精製水が少ない方が短時間で調製可能となるので、実用性を考慮すると精製水は少ない方がより簡単である。 ② CMC-MEGと原薬との混合比の検討:今のところ、CMC-MEG粉体と原薬の混合比はまだ最適化されていない。次年度は精製水の量と合わせて適切な混合比を推定したいと考えている。また、原薬はモデル医薬品として引き続きアセトアミノフェンを用いる予定である。 ③多孔質性の制御:SEM観察によるとマスキング効果が発揮されたCMC-MEG粉体の表面は多孔質になっていた。多孔質性はマスキング効果に何らかの影響を及ぼしている可能性がある。そこで、次年度は作製した粒子に比表面積測定やX線CT測定による内部観察を実施し、多孔質性とマスキング効果の関係をより明らかにしたいと考えている。 ④マスキング機構の解明:CMCはMEGなどの特定の塩基性物質とともに水へ溶解し、減圧乾燥することでマスキング効果を発揮した。この結果からCMCは塩基性物質と塩を形成した可能性があり、確認することでマスキング機構の理解に繋がると考えられる。CMCの粉末X線回折測定ではピークが観測できないので赤外吸収スペクトルを利用して塩が形成されたか確認したい。もし塩が形成されていた場合はCMCよりも水溶性のCMC塩となった可能性が高く、その影響で膨潤が速く進行し、周囲の原薬粒子からの溶出または拡散を抑制した可能性がある。
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