研究課題/領域番号 |
20K16065
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
岩尾 卓朗 福岡大学, 薬学部, 助教 (30846374)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 血液脳関門 / 脳ペリサイト / DHA / 高齢発症てんかん / 細胞老化 |
研究実績の概要 |
本研究では加齢による脳血管の機能劣化が慢性的な脳内炎症を引き起こすことで脳神経細胞障害が増幅し、さらに頭部外傷による脳血管障害の重積が爆発的に脳内炎症を加速させ神経機能の憎悪回路が駆動される結果、高齢発症てんかんが顕在化すると仮説した。中でも、脳ペリサイトの加齢性病変化を基軸とした脳神経血管機構(Neuro Vascular Unit; NVU)を構成する細胞のクロストーク異常による脳神経血管機構制御機構破綻を高齢発症てんかん病態形成機構の核として捉えている。本年度は脳ペリサイトの細胞老化と個体老化との相同性、脳ペリサイトが脳血管内皮細胞のDHA取り込みに与える影響、加齢による脳内DHA量の変化とピロカルピン誘発性てんかん発作感受性との相関について検証した。
1) 老齢ラットから単離した脳ペリサイトは、若年ラットから単離したものと比べ、老化マーカーであるβガラクトシダーゼ、p16、p21、p53の発現量が増加していた。更に老齢ラットの脳ペリサイトは、血液脳関門バリア機能を強化する作用が減弱していた。細胞老化を誘発させた脳ペリサイトにおいても同様の変化が認められたことから、個体老化と細胞老化には一定の相同性があることが示された。 2) 脳ペリサイトと共培養した脳血管内皮細胞ではDHAのトランスポーターであるMfsd2a発現量が増加することを明らかにした。更に脳ペリサイトと共培養した脳血管内皮細胞ではDHAの細胞内への取り込み量が増加することを明らかにした。 3) 老齢マウスにおいてピロカルピン誘発性てんかん発作感受性は増加しており、更に脳微小血管におけるMfsd2a発現量やDHA脳移行性及び脳内DHA量が低下していた。この結果は、加齢に伴うてんかん感受性の増加と脳内DHA量の低下に相関があることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
老齢ラット及び細胞老化を誘発させた脳ペリサイトの確保に時間がかかるため、脳ペリサイトの個体老化及び細胞老化による変化についての検証に時間を要した。そのため、老化型脳ペリサイトが他のNVU構成細胞に与える影響についての検証が進まなかった。しかし、細胞老化による脳ペリサイトの変化が生体内でも生じる可能性を提示することができた。現在この老化型脳ペリサイトがオリゴデンドロサイト前駆細胞、ミクログリアに与える影響について評価中である。 また、頭部外傷を加えなくとも、老齢マウスでは若年マウスと比べピロカルピン誘発性てんかん発作感受性が増加しており、高齢発症てんかんの病態解明にはまず加齢という要因がてんかん感受性を高める原因を追究する必要があり、この検証に時間を要している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに脳ペリサイトの老化による変化について一定の評価ができたため、この老化型脳ペリサイトが他のNVU構成細胞に与える影響について検証を進めていく。これまでに脳ペリサイトが脳血管内皮細胞のMfsd2a発現及びDHA取り込みに与える影響について評価できているので、脳血管内皮細胞のDHA取り込みに対する脳ペリサイトの老化の影響について検証する。 これまでに老齢マウスでは脳微小血管上のMfsd2a発現量が低下し、DHA脳移行性及び脳内DHA量が低下することを明らかにした。老齢マウスにおいて脳ペリサイトが減少していたことから、加齢に伴う脳ペリサイトの変化が脳血管内皮細胞のMfsd2a発現量及びDHA脳移行性に影響を与え脳内DHA量が低下した可能性がある。更に老齢マウスでは若年マウスと比べピロカルピン誘発性てんかん発作感受性が増加しており、脳内DHA量の低下と加齢に伴うてんかん感受性の増加には相関があると考えられる。 当初の計画では頭部外傷を施した老齢マウスを使用して実験を進める予定であったが、高齢発症てんかんの病態解明のためには、加齢という要因がどのようにてんかん感受性を高めるのか検証する必要があるため、通常の老齢マウスを使用して実験を進める。 今後は脳内DHA量の低下がてんかん感受性を高めている原因であることを検証するために、老齢マウスに3ヶ月間DHA高含有食を摂食させ脳内DHA量を高めることでてんかん感受性が低下するのか検討する。
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