本研究は,難治性神経疾患患者の流涎治療の現状および流涎に対する影響因子を明らかにすること,難治性神経疾患患者の流涎に対する適切な薬物療法の確立することを目的として,下記のように研究を遂行した。 ①流涎に対する影響因子検討のための多施設共同横断研究:共同研究機関において難治性神経疾患患者の流涎に関する現状調査を実施した。調査対象者269名(脳性麻痺107名,神経筋難病名162名)において,脳性麻痺は神経筋難病と比べ有意に流涎を呈する患者が多かった。多変量解析の結果,脳性麻痺では「若年者」,神経筋難病では「嚥下機能低下者」において流涎が現れやすいことが明らかになった。また,神経筋難病において「タルチレリン」が流涎と正に関連おり,流涎を悪化させる可能性があることが示唆された。 ②スコポラミン軟膏に関する基礎的検討:唾液分泌促進ラットを用いて院内製剤スコポラミン軟膏の塗布部位が薬効や唾液腺移行性に及ぼす影響を検討した。スコポラミン軟膏を唾液腺上部皮膚に塗布した群(SSG群)では,3~24時間の全時点で塗布前からの唾液減少率が無処置群と比較して有意に大きかったが,背中に塗布した群(SB群)では24時間後のみ有意な差を認めた。この結果から,スコポラミン軟膏は唾液腺上部皮膚に塗布することで,より強く唾液分泌を抑制することが示唆された。一方,両群間で血漿中スコポラミン濃度に差は見られなかったが、SSG群の唾液腺組織中スコポラミン濃度はSB群と比較して3~9時間で高い傾向が見られ,9時間で有意に高値を示した。このことから,スコポラミン軟膏の塗布部位による薬効の差は唾液腺組織への移行性の違いが原因であることが示唆された。
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