研究課題
シスプラチンは多くの固形がんの標準治療に用いられているが、副作用として高頻度に発現する腎障害は治療継続の妨げとなる場合があり、臨床上大きな問題となっている。一方で、シスプラチン誘発腎障害の予防に推奨される薬剤はなく、腎障害予防として水分負荷などが行われているが、患者への負担も大きく、腎障害を完全には防ぐことができないため、新しい予防法の確立が求められている。そこで本研究では、シスプラチン誘発腎障害に対する予防薬開発を目的とした。米国FDAに報告された約1400万症例の有害事象自発報告データベース (FAERS) を解析した結果、腎障害の報告割合を減少させる既存医薬品の予防薬候補薬剤として脂質異常症治療薬であるフェノフィブラートが抽出された。HK2細胞(ヒト近位尿細管細胞)およびシスプラチン誘発腎障害マウスモデルを用いて腎障害に対する影響を評価した結果、フェノフィブラートはシスプラチン誘発腎障害を有意に抑制することが明らかになった。また、LLC細胞(ルイス肺がん細胞)、Colon26細胞(マウス結腸がん細胞)を用いた検討の結果、フェノフィブラートはシスプラチンの抗腫瘍効果を阻害しないことが示唆された。さらに、フェノフィブラートは一部PPARαを介して腎障害抑制作用を示すことが明らかになった。本研究の結果より、フェノフィブラートはシスプラチン誘発腎障害の予防薬になる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
2020年度の研究結果より、フェノフィブラートはシスプラチン誘発腎障害の予防薬になる可能性が示唆された。2021年度は、フェノフィブラートのシスプラチン誘発腎障害の予防作用の機序解明を目的に検討を行った。その結果、フェノフィブラートは一部PPARαを介して腎障害抑制作用を示すことが明らかになった。また、フェノフィブラート以外のフィブラート系薬剤であるベザフィブラートがフェノフィブラートと同様の効果を示すかどうかを検討した結果、ベザフィブラート併用により有意な腎障害保護作用は認められなかった。
これまでの研究結果より、フェノフィブラートはシスプラチン誘発腎障害の予防薬になる可能性が示唆された。本年度はフェノフィブラートのシスプラチン誘発腎障害の予防薬としての臨床応用の可能性を模索するため、日本のレセプトデータベースであるJMDCを用いて、フェノフィブラートの併用によるシスプラチン誘発腎障害の予防効果を検証する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件)
The Oncologist
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10.1093/oncolo/oyab077
Clinical and Translational Science
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