多重がんは、原発性のがんが複数箇所に発生する疾患であり、高齢化やがん治療の発展に伴い、その患者数は世界的に増加している。本研究の目的は、性質の異なる複数のがんに効果的で副作用が少ない抗がん剤治療を見出すことである。2020年度の研究成果より、オートファジー阻害剤クロロキンとの併用で多重がんに有用な抗がん作用は細胞障害性抗がん剤ドキソルビシンであるという知見を得た。 2021年度は、培養細胞を使用しクロロキンによるドキソルビシン誘導アポトーシスの増大メカニズムの解明および多重がんモデルマウスの作成を行った。A549(ヒト肺胞基底上皮腺がん細胞)、HT29(ヒト結腸腺がん細胞)において、クロロキンによりドキソルビシンによる活性酸素の増大が促進された。さらに、ドキソルビシンによるミトコンドリア由来のアポトーシスも促進された。ドキソルビシンによりMAPK(mitogen-activated protein kinase)に分類されるp38、JNK(c-Jun N-terminal kinase)、ERK(Extracellular Signal-regulated Kinase)のリン酸化が認められた。さらにクロロキンによりp38、JNKのリン酸化が促進された。一方、クロロキンによりERKの脱リン酸化が認められた。ドキソルビシンおよびクロロキン誘導アポトーシスに対するp38、JNK阻害剤の影響は認められなかったが、ERK阻害剤はドキソルビシンおよびクロロキンによるミトコンドリア由来のアポトーシスを促進した。次にA549、HT29を各々ヌードマウスに移植し、多重がんモデルマウスを作成し、ドキソルビシンおよびクロロキンによる抗がん作用の評価系を確立した。
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