本研究の目的は、血球系がん化細胞(BCR-ABL遺伝子を導入)を用いて、がん化細胞と免疫系細胞のエネルギー代謝及び免疫寛容の状態変化を同時に評価し、両者の相互作用を検討し得る「血液がんマウスモデル」を構築することである。本研究では、①がん遺伝子を恒常発現するレポーター遺伝子導入細胞を樹立し、①免疫機能を維持した状態でがん進行度を可視化できる血液がんマウスモデルの構築することに挑戦した。本年度は、がん遺伝子を導入していないMock細胞の樹立およびMock細胞のマウスへの生着を評価し、フローサイトメトリーによるがん進行度のモニター法の確立や細胞障害性T細胞の活性評価系の樹立を試みた。その結果、GFPを恒常発現するBa/F33細胞であるMock細胞の樹立に成功し、Mock細胞がC3Hマウスに生着しないことが確認された。また、メタボローム解析に替わるエネルギー代謝評価法として解糖系酵素およびミトコンドリア呼吸鎖複合体の発現量の評価および細胞の呼吸活性やIDH酵素活性を構築した。 全体を通じて、BCR-ABL遺伝子を恒常発現するレポーター遺伝子導入がん化Ba/F3細胞およびそのMock細胞の樹立に成功した。また、アニマルランセットを用いたIn vitro luciferase assayによるがん化Ba/F3細胞の生着や生存を維持した状態でのがん進行度の評価法を確立した。その評価法を用いて、チロシンキナーゼ阻害剤の薬効評価が可能であることを証明し、今回樹立した動物モデルがキナーゼ阻害薬の薬効評価に有用なモデルであることを実証した。しかし、免疫惹起や免疫寛容に関する知見やがん細胞と免疫細胞のエネルギー代謝の変動および相互作用を評価するに至っておらず、本モデルの有用性について更なる検討が必要である。
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