研究課題/領域番号 |
20K16089
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
今岡 鮎子 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 助教 (10710957)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | キレート形成 / 薬物相互作用 / 金属カチオン / ニューキノロン系抗菌薬 |
研究実績の概要 |
アルミニウムはヒトにおいて必須の元素ではなく、腸管からほとんど吸収されないと言われており、過剰摂取するとアルツハイマー病などの神経変性疾患につながるとされている。また、マグネシウムは緩下剤や制酸剤として広く使用されており、安全性の高い医薬品として認識されていたが、近年、酸化マグネシウム製剤服用による高マグネシウム血症に起因した死亡例が数件報告されている。これをもとに、国より二度も使用上の注意喚起がなされるなど、適正使用に注意が必要な薬剤となった。消化管吸収モデル細胞を用いた先行研究において、ニューキノロン系抗菌薬併用によるアルミニウムの吸収亢進が観察されており、これが生体レベルでも起こると上記のようなリスクが生じる可能性がある。そこで本研究では、ニューキノロン系抗菌薬併用による金属カチオンの吸収亢進について、小動物を用いて検討することでより臨床的な評価を行うことを目的とし、ラットを用いた in vivo 検討を行った。 まず、代表的なニューキノロン系抗菌薬であるシプロフロキサシンと酸化マグネシウム製剤をラットに投与することにより、両者の薬物動態を定量的に評価した。その結果、酸化マグネシウム製剤の併用によりシプロフロキサシンの薬物血漿中濃度-時間曲線下面積(AUC)は23%に低下した。マグネシウムのAUCは、シプロフロキサシン併用により56%に低下、すなわち吸収(全身移行量)が低下したことが示唆された。これは、キレート形成によりマグネシウムの主要な吸収経路である傍細胞経路を通過できなくなったためと考えられる。続いて、ラット小腸を用いてシプロフロキサシン併用時のアルミニウムの吸収を評価した。その結果、アルミニウムの絶対吸収量はシプロフロキサシンの併用により増大する傾向がみられた。 以上より、現段階では、金属カチオンの種類によって、抗菌薬併用による影響が異なる可能性が示唆されている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、まず前年度の継続として、シプロフロキサシンと酸化マグネシウム製剤をラットに投与することにより、両者の薬物動態を定量的に評価した。その結果、酸化マグネシウム製剤の併用によりシプロフロキサシンの最高血漿中濃度(Cmax)およびAUCは、それぞれ28%、23%に低下した。マグネシウムのCmaxおよびAUCは、シプロフロキサシン併用によりそれぞれ83%、56%に低下した。このとき、シプロフロキサシン併用時の腎クリアランスが70%に低下していたことから、マグネシウムの吸収(全身移行量)は40%程度に低下したことが示唆された。これは、キレート形成によりマグネシウムの主要な吸収経路である傍細胞経路を通過できなくなったためと考えられる。 続いて、アルミニウムについて同様に全身移行性を評価しようとしたところ、血漿中濃度の定量に難渋したため、まずは腸管吸収に焦点をあて、ラット小腸を用いた反転腸管法により、シプロフロキサシン併用時のアルミニウムの吸収を評価することとした。まだ、予備検討段階ではあるが、シプロフロキサシン併用時にはアルミニウムの絶対吸収量が増大することが確認されている。これは我々の細胞を用いた先行研究結果と同様の傾向を示しており、生体レベルでもアルミニウム吸収亢進が起こる可能性を示唆しているが、引き続き検討を重ねていく。 一方で、本年度も少なからずCOVID-19の影響を受けたこともあり、消化管吸収モデル細胞によるアルミニウム吸収増大のメカニズムの解明には着手できていない。よって、進捗状況としてはやや遅れていると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
上記の通り、ラットを用いたシプロフロキサシン併用時のマグネシウム吸収動態については評価できた。アルミニウムの吸収動態については引き続き検討を進めていく。また、先行研究で観察されたアルミニウム吸収増大のメカニズム解明に向けて、消化管吸収モデル細胞を用いた膜透過実験も進めていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度もCOVID-19の影響により、実験計画がやや遅れていることと、旅費が不要となったため、次年度使用額が生じた。この次年度使用額は、本年度に実験予定であったラット薬物動態試験の一部を実施するのに使用する。
|