血液浄化療法は、血液中の病因物質を除去する治療法であり、慢性腎不全、薬物中毒をはじめ様々な病態において施行される。薬物中毒の治療において行われる血液浄化療法は、体内の薬物を除去することが目的であり、薬物が血液浄化療法によりどの程度除去されるかという情報は重要である。血液透析による薬物の除去能の指標として透析クリアランスが用いられる。本研究では、薬物の分子構造と透析クリアランスの定量的関係を調べ、薬物の透析クリアランスを透析液流量、血流量、透析膜および薬物の分子構造の関数として表す数理モデルを構築した。令和2年度には既報の数理モデルによる透析クリアランス予測の適格性評価を行い、分子構造により予測性能の偏りが認められることを明らかとした。令和3年度には薬物中毒患者の症例報告を対象とし、血中薬物濃度データより推定した透析クリアランスと、分子構造より数理モデルを用いて推定した透析クリアランスを比較することにより臨床応用の可能性を検討した。カフェイン透析クリアランスは既報の数理モデルにより推定可能であるが、リチウム透析クリアランスは推定精度が低いことが明らかとなった。そこで、令和4年度には機械学習を用い新規透析クリアランス予測モデルの構築を行った。これにより、既報の数理モデルにより認められた分子構造による予測性能の偏り無く透析クリアランスを予測することが可能となった。また、透析クリアランスの正確な測定には透析液中薬物濃度の測定が必要であるため、ポサコナゾール、ボリコナゾール、フェニトインを対象とし、高速液体クロマトグラフィーによる透析液中薬物濃度測定系を構築した。
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