研究課題/領域番号 |
20K16111
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
小林 しおり 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 特命助教 (60747905)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 抑制性ニューロン / GABAニューロン / グリシンニューロン / 遺伝子改変マウス / 神経の発生 |
研究実績の概要 |
抑制性ニューロンにはGABAニューロンとグリシンニューロンが知られている。これまで、GABA作動性神経終末とグリシン作動性神経終末を免疫組織学的手法を用いて標識することにより脊髄における発達を明らかにしてきたが、それぞれの細胞体がどこから分化しどのように移動するのか、またどのように関わりあうのか、不明な点が多い。本研究では、遺伝子改変マウスを用いてGABAニューロンとグリシンニューロンを可視化し脳幹における発生過程を追うことで、抑制性ニューロンの分化と移動の全体像を明らかにすることを目指す。そのために、まずGABAニューロン特異的に緑色蛍光タンパク質(GFP)が発現するGAD67-GFPノックインマウスを作製し、胎児期の脊髄・脳幹における発現分布を検討した。脊髄においては、まず基板から複数のドメイン構造がGABAニューロンへ分裂し、さらに遅れて翼板からGABAニューロンが発生することがわかった。この結果は、Factors Affecting Neurodevelopment - Genetics, Neurology, Behavior, and Dietに総説の一部として掲載予定である。次に、グリシンニューロン特異的に赤色蛍光タンパク質(tdTomato)を発現するGlyT2-Cre/VGAT-stop-tdTomatoダブルトランスジェニックマウスを作製した。胎齢15日目の脳幹について、複数の神経核でtdTomato陽性細胞を確認できた。GAD67-GFPノックインマウスのGFP陽性細胞の分布と比較したところ、胎齢15日目ではGABAニューロンとグリシンニューロンの発生過程が異なることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
はじめに、GAD67-GFPノックインマウスを作成し、胎生期のサンプリングを行った。脊髄においては、まず中心管周囲の脳室帯で基板から複数のドメイン構造がGABAニューロンへ分裂し、遅れて翼板からGABAニューロンが発生する。この結果は、Factors Affecting Neurodevelopment - Genetics, Neurology, Behavior, and Dietに総説の一部として掲載予定である。次に、脳幹部におけるGFP陽性細胞の局在を調べた結果、胎齢15日目では三叉神経主知覚核や三叉神経脊髄路核、脊髄前庭神経核、外転神経核にGABAニューロンが発現していることがわかった。また、グリシンニューロンにCre活性が起きるGlyT2-CreノックインマウスとCreの存在下で抑制性ニューロン特異的に赤色蛍光タンパク質(tdTomato)を発現するVGAT-stop-tdTomatoレポーターマウスを準備し、交配させることで、GlyT2-Cre/VGAT-stop-tdTomatoダブルトランスジェニックマウスを作製した。胎齢15日目の胎児をサンプリングし、厚さ50μmの浮遊切片を作成して観察したところ、下橋網様体核、上オリーブ核、三叉神経中脳路核、舌下神経核、孤束核、三叉神経主知覚核、三叉神経脊髄路核、脊髄前庭神経核においてtdTomato陽性細胞を確認することができた。GAD67-GFPノックインマウスのGFP陽性細胞の分布と比較したところ、三叉神経主知覚核、三叉神経脊髄路核、脊髄前庭神経核ではGFP陽性細胞も確認することができ、GABA/グリシン共放出型のニューロンが存在しているのではないかと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、以下の通りGlyT2-Cre/VGAT-stop-tdTomatoダブルトランスジェニックマウスを用いたグリシンニューロンの発生過程を詳細に検討する。また、GABAニューロンの発生過程と比較を行う。GABAとグリシンは単なる抑制性伝達物質というだけでなく、呼吸機能や神経再生などにも重要な役割を担っていることが近年明らかになってきており、このようなGABAとグリシンニューロンの起源を探り、その相互関係を追うことは意義深い。 (1)進捗状況で述べた通り、胎齢15日の時点でグリシンニューロンが脳幹の広範囲に渡って発現していると考えられる。そのため、それ以前の胎児についてtdTomato陽性細胞の局在を調べ、いつどこからグリシンニューロンが分化するか調べる。 (2)胎齢期の発達に加え、生後発達におけるグリシンニューロンの分化や移動を調べる。脊髄においてグリシントランスポーター2(GlyT2)を指標とした脊髄におけるグリシン作動性神経終末の発達変化を調べたところ、GABA作動性神経終末が先行して分化し、その後GABA/グリシン共放出型、さらに前角ではグリシン作動性神経終末にとってかわることがわかっている。 (3)発生過程においてGABAニューロンとグリシンニューロンのがどのように関わりを持つか解析する。方法としては、GAD67-GFPマウスとGlyT2-Cre/VGAT-stop-tdTomatoマウスを交配させ、ダブルレポーターマウス(GAD67GFP/GlyT2Tomatoマウス)を作製する。GABAニューロンはGFP、グリシンニューロンはtdTomatoで標識され、発生過程における相互関係を追うことができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの影響で、研究を始める時期が遅れたことや学会に参加できなかったことが次年度使用額が生じた理由としてあげられる。当該年度では遺伝子改変マウスを作製し交配が順調にできることがわかった。次年度からは本格的に研究を進めることができるため、マウスの購入費や飼育維持費、また学会参加費や論文作成のために助成金を使用する計画である。
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