もやもや病は日本を初めとする東アジア圏の子どもに多く見られる原因不明の難治性脳血管疾患である。大脳への主要な血液供給路である内頸動脈終末部の狭窄・閉塞により深刻な脳虚血・脳梗塞を生じる。また慢性的な脳虚血状態を解消するために側副血行路として脆い新生毛細血管網が誘導され(もやもや血管)、これが成人以後の脳出血の原因となる。狭窄は主に頭蓋内の内頚動脈終末部周辺において認められ、全身のその他の血管には明瞭な異常を認めない。 もやもや病の原因遺伝子産物であるミステリン(別名RNF213、ALO17)は運動性のATPアーゼ活性とタンパク質ユビキチン化活性を持つ巨大な細胞内タンパク質であり、細胞内の脂質貯蔵場所である脂肪滴に局在して2つの酵素活性依存的に脂肪トリグリセリドリパーゼ(ATGL)を含むタンパク質サブセットの挙動を制御することで、脂肪滴の質・量制御に関わる。他方、患者変異型ミステリンは、細胞内で脂肪滴から乖離して凝集様の構造を形成する。このような脂肪滴からの乖離および凝集様構造の形成がもやもや病の発病に寄与する可能性を考え、今年度、それぞれのプロセスの詳細および細胞に生じる影響について解明を進めた。今年度の解析により特に、①異常構造形成を起点として炎症の活性化が惹起されること、②細胞内の特定の代謝システムが著明に障害されることなどを同定できた。また同様の障害が組織・個体レベルで生じている可能性について、マウスを用いた解析を進めた。
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