研究課題/領域番号 |
20K16118
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
原田 一貴 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (60830734)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | グルカゴン様ペプチド-1 / バソプレシン / 糖代謝 |
研究実績の概要 |
アルギニンバソプレシン(arginine vasopressin: AVP)は抗利尿ホルモンとして作用するほか、概日リズムや社会行動も制御する。さらにAVPは、インスリンやグルカゴンの分泌制御にも関与する。 先行研究において小腸内分泌L細胞から分泌されるグルカゴン様ペプチド-1(glucagon-like peptide-1: GLP-1)がAVP分泌を抑制することから、AVPとGLP-1の分泌に相互作用が存在し、これがインスリン分泌や血糖値の制御を司っているのではないかと考え、生細胞イメージングおよび3種のAVP受容体遺伝子欠損マウス(V1aR-/-マウス、V1bR-/-マウス、V1aR-/-・V1bR-/-マウス)の生理学的解析を行った。マウス小腸内分泌L細胞株GLUTag細胞において、AVPが細胞内Ca2+濃度を上昇させ、GLP-1分泌を促進すること、Ca2+濃度の上昇にV1aRおよびV1bRの両者が関与していることを見出した。GLP-1分泌を強く促進する粉末ミルクを投与すると、AVP受容体遺伝子欠損マウスは野生型マウスと異なりGLP-1分泌が促進されなかった。小腸で免疫染色を行った結果、小腸下部におけるL細胞密度は野生型マウスとAVP受容体遺伝子欠損マウスとで差がなかったため、AVP受容体遺伝子欠損マウスではL細胞そのものの減少ではなく、摂食刺激感受時のGLP-1分泌能が低下していると考えられた。一方、グルコース耐性テストにより血糖値とインスリン分泌動態を解析した結果、AVP受容体遺伝子欠損マウスは野生型マウスよりも高インスリン・低血糖傾向にあった。そのため、GLP-1分泌不全を補償し、糖代謝を改善させる何らかの要因が存在すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画のとおり、マウス小腸内分泌L細胞株GLUTag細胞において、AVPが細胞内Ca2+濃度を上昇させ、GLP-1分泌を促進することを見出した。また、AVP受容体遺伝子欠損マウスでグルコース耐性テストを行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、AVP受容体遺伝子欠損マウスのL細胞でGLP-1分泌能が低下するメカニズムと、GLP-1分泌不全が補償されるメカニズムの解析を行う。具体的には、GLP-1分泌能が低下しているにもかかわらず糖代謝が改善されていることから、他のホルモン濃度の変化が起きていると考えられる。そこで、複数種類のホルモン濃度をまとめて測定できるマルチプレックス測定を行い、グルカゴン、グレリン、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド、レプチンなどの濃度変化を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響で、実験動物の飼育規模縮小が起き、当初予定していた実験計画を遂行できなかった。次年度は、今年度の計画に含まれていた実験も含め研究を進めていく予定である。
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