研究課題/領域番号 |
20K16121
|
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
神谷 知憲 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (80823682)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 腸内細菌 / 肝癌 / 細胞老化 |
研究実績の概要 |
高リノール酸(LA)食給餌により肥満誘導性肝がんモデルにて腫瘍形成数が抑制された結果を紐解くため、本年は以下の項目を実施した。 高LA給餌によりLAの細菌代謝物が肝臓に顕著に蓄積していたことから、高LA給餌マウスの腸内にはLA代謝能のある細菌が存在すると考え、単離を試みた。一般的に、多価不飽和脂肪酸は細菌に対して毒性を示すことが知られているため、高LA給餌マウスの糞便懸濁液とLAとを共培養し、これを継代する集積培養法にてLA代謝菌の単離を行った。その結果、Lactobacillus murinusのみが単離された。さらに、既知のLA代謝酵素のアミノ酸配列から縮重プライマーを作成し、高LA給餌マウスの糞便DNAを用いてNested PCRによるクローニング操作を行なった。その結果、先の単離株の水酸化酵素遺伝子であることがわかった。 先の結果からLactobacillus属のLA代謝能が予測された。そこで、その他のLactobacillus属の単離を試み、高LA給餌マウスの糞便から、Lactobacillus johnsoniiとLactobacillus reuteriを単離した。L. murinusを含めた3菌株のLA代謝能を検証するため、それぞれの菌株にLAと補酵素を添加し、休止菌体反応をさせた。その結果、L. murinusは水酸化脂肪酸への変換効率が70%以上と最も多かった。 上記の結果から、L. murinusに注目し、単離株の全ゲノムシーケンスを実施した。クローニングした遺伝子と全ゲノム配列を比較し、LA水酸化酵素の配列を予測した。欠損株作成用の組換え用ベクター作成し、L. murinusの野生型株に導入し欠損株を作成した。この欠損株のLA代謝能を確認したところ、水酸化脂肪酸の産生が全く行われていなかったことから、LAの水酸化のみを欠損させた株の樹立に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定としていた内容と比較し説明する ①どの腸内細菌がリノール酸を代謝するのか…リノール酸に耐性、または指向性のある菌を抽出することができ、また単離も行えた。この菌株の欠損株を作成することで責任遺伝子の同定でき、進歩は順調である。 ②どのリノール酸代謝物が抗腫瘍免疫を活性化させるのか…①にて対象となる菌株単離し、リノール酸の代謝に必須な遺伝子の同定を行えたことから、水酸化脂肪酸を注目すべきと判断した。抗腫瘍免疫を担う細胞を肝臓から単離し、in vitroなどの試験によりその効果を検証する必要があり、次年度より実施する。 ③どの肝免疫細胞が抗腫瘍免疫として作用しているのか…本研究で使用する肥満誘導性肝癌のモデルでは、肝星細胞の細胞老化に伴う細胞老化随伴分泌現象(SASP)による慢性炎症の誘導が肝癌形成に大きく寄与することが報告されている。免疫細胞だけでなく、肝星細胞にも注目すべく、単離法の確立を行なった。次年度より検証したい。
|
今後の研究の推進方策 |
来年度に実施する内容を箇条書きにて記載する ● LA代謝物が作用する細胞を特定する(免疫細胞) … 肥満誘導性肝癌において、抗腫瘍免疫の重要性が報告されてきた。特に癌を直接攻撃するキラーT細胞(IFNγ産生性CD8陽性T細胞)の働きが注目されている。本研究で使用するマウスモデルでもキラーT細胞の活性が抗腫瘍免疫の中心になる。そこで、in vivo、in vitroにおいて、LA、及びLAの腸内細菌代謝物がキラーT細胞の働きに与える影響を検証する ● LA代謝物が作用する細胞を特定する(肝星細胞) … 肥満誘導性肝癌において、肝星細胞の細胞老化に伴う細胞老化随伴分泌現象(SASP)による慢性炎症の誘導が肝癌形成に大きく寄与することが報告されている。これまで長鎖脂肪酸やその腸内細菌代謝物のSASPへの影響については研究がなされていない。そこで、免疫細胞と同様に、肝星細胞の細胞老化、及びSASPに与える影響を検証する。
|