研究課題/領域番号 |
20K16123
|
研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
美辺 詩織 岩手医科大学, いわて東北メディカル・メガバンク機構, 特命助教 (40781571)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 思春期早発症 / 神経内分泌学 / 性成熟 / 胎児プログラミング / 視床下部 / Kisspeptin / ゴナドトロピン |
研究実績の概要 |
思春期早発症は、第二次性徴(初経、精巣・乳房や陰毛の発育、声変わりなど)が早期に現れる疾患であり、発症率は2-3%といわれる。思春期早発症には、副腎や性腺の疾患による末梢性と、視床下部からの性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)早期分泌による中枢性の2つがある。中枢性のなかでも特に、脳腫瘍などの疾患によらない原因不明の特発性思春期早発症は女児に多いのが特徴であるが、発症機序の詳細は不明である。発達心理学の分野ではこの発症機序について、メタ分析を通じて幼少期の心理的ストレス(父親不在)が初潮開始を早期化することが報告された。このように、思春期早発症が「発達期の生育環境が、成長後の健康や疾患発症に影響する」とする医学学説(DOHaD仮説)による説明可能な疾患である可能性が高く、思春期早発症は人生初期のストレス環境によって発症素因が形成されることが強く予想される。これまでに思春期早発症の発症機序についてDOHaD学説の実験的証明をするため、制限給餌母ラットから生まれきた子(胎児期栄養ストレスモデル)の生殖機能について解析を行なった。対照群と比較し低体重で膣開口し、早期に初回発情を迎えることから。次に、この早熟傾向を示した胎児期栄養ストレスモデルと、性成熟期のGnRHパルス分泌の中枢制御を担う視床下部KNDy遺伝子(Kiss1、Tac3およびPdyn)について対照群と比較した。その結果、性成熟前の視床下部Tac3遺伝子発現は有意に上昇し、視床下部Pdyn遺伝子発現は低下傾向を示した。Tac3及びPdynは思春期でのGnRHパルス分泌に対してそれぞれ促進、抑制的に機能することため、胎児期栄養ストレスは視床下部のGnRH上流制御因子であるTac3とPdyn遺伝子発現を変化させることでGnRH早期分泌による中枢性思春期早発を引き起こす可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和3年度に他機関に異動し、齧歯類からヒト臨床研究への計画を変更したため現在実験の準備中である。前年度に齧歯類を実験モデルとして得られた成果は学術論文として発表するために原稿を準備中であるため当初の計画からはやや遅れていると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、胎児期栄養ストレスは視床下部のGnRH上流制御因子の遺伝子発現を変化させることでGnRH早期分泌による中枢性思春期早発を引き起こす可能性が示唆された。今後は、思春期早発症の治療・予防のためのエピゲノムマーカーを活用したオーダーメイド医療に繋げるという本研究の目標を達成するため、研究対象を齧歯類での基礎研究ではなく人の臨床試験として計画を変更し、胎児期ストレスが子のエピゲノム変化に与える影響について当初の計画通り研究を遂行する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
他機関に異動し本年度は研究計画の一部変更を余儀なくされ、準備期間となったため支出が少額となった。次年度は当初の計画に沿って支出する。また、新型コロナ感染症の流行が続き、今年度に現地参加を計画していた国内外学会がオンライン参加となったため出張費を支出しなかった。次年度は国内外学会に積極的に参加し、情報収集と成果についての報告を行うため、旅費についても使用を計画している。また、得られた成果の論文発表に必要な諸経費も支出する予定である。
|