研究課題/領域番号 |
20K16124
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研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
今 理紗子 星薬科大学, 薬学部, 特任講師 (90779943)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アクアポリン / M1マクロファージ / M2マクロファージ |
研究実績の概要 |
免疫細胞の一つであるマクロファージは、細菌などの異物を貪食し排除するとともに、炎症を惹起することにより免疫応答の発動に関与している。近年、マクロファージはメタボリックシンドロームや動脈硬化、がんの転移など種々の疾患の発症や増悪に関与していることから、マクロファージの特徴や機能を解析し、疾患との関わりを明確にしていくことは、様々な疾患の予防や新しい治療薬の開発の一助になり得ると考えられている。このようななか、申請者は、大腸に発現する水チャネル「アクアポリン(AQP)」の機能解析を行うなかで、抗がん剤により大腸炎が発症した際には、大腸に発現するAQPファミリーのうち、ほとんどのAQPが減少したのに対して、AQP9のみが著明に増加することを明らかにした。また、増加が認められたAQP9は大腸のマクロファージに由来することを見出した。本研究では、炎症性疾患に対する新規予防法や治療法について提言することを目的として、マクロファージにおけるAQPの機能やその生理的意義を解析した。マウスマクロファージ由来RAW264.7細胞にリポ多糖(LPS)を添加すると、炎症性のM1マクロファージへの極性化が確認でき、このときAQP9のみが約10倍有意に増加した。また、マウスbone-marrow-derived macrophage(BMDM)を用いた解析においても、同様の結果を得ることができた。一方、RAW264.7細胞にインターロイキン4(IL-4)を添加した場合には、抗炎症性のM2マクロファージへ誘導されるものの、いずれのAQPにおいても有意な変化は認められなかった。一方、BMDMにIL-4を添加した場合には、AQP9に加えてAQP3の発現増加が認められた。以上の結果から、マクロファージがM1へと誘導された場合には、AQP9のみが特異的かつ著明に増加することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マクロファージにおけるAQPの機能やその生理的意義について解析するに先立ち、まず、異なる炎症物質によりマクロファージを刺激した際のAQPの発現変化について調べた。炎症物質としては、炎症性のM1マクロファージに極性化させるものとしてLPS、抗炎症性のM2マクロファージに極性化させるものとしてIL-4を用いた。RAW264.7細胞にLPSを添加すると、M1マクロファージのマーカーであるtumor necrosis factor-α(TNF-α)およびmonocyte chemotactic protein-1(MCP-1)のmRNA発現量が増加した。このときのAQP0-12のmRNA発現量を網羅的に解析したところ、AQP9のみが約10倍有意に増加していることがわかった。一方、RAW264.7細胞にIL-4を添加した場合には、M2マクロファージのマーカーであるCD206のmRNA発現量が増加していたものの、いずれのAQPにおいても有意な変化は認められなかった。また、マウスマクロファージのprimary cultureとしてBMDMを用いて同様に解析したところ、LPSを添加した場合にはTNF-αおよびMCP-1の発現レベルが亢進するとともに、AQP9のmRNA発現量が約200倍に増加した。一方、BMDMにIL-4を添加した場合には、M2マクロファージのマーカーであるarginase-1の発現レベルが亢進し、このときAQP3が約30倍、AQP9が約10倍有意に増加することがわかった。以上の結果から、マクロファージがM1へと誘導された場合には、AQP9のみが特異的かつ著明に増加することが明らかとなった。また、マクロファージが抗炎症性のM2状態へと誘導された場合には、使用する細胞によってAQPの発現パターンが異なることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、M1マクロファージへと誘導した際に著明な発現増加が認められたAQP9に焦点をあて、その機能や生理的意義を解析する。具体的には、RAW264.7細胞においてAQP9を過剰発現あるいはsiRNAによりノックダウンし、LPSおよびIL-4で刺激した際の炎症反応がどのように変化するかを調べる。また、このときの細胞体積の変化、細胞内外のグリセロール、尿素、過酸化水素などの濃度を測定するとともに、メタボローム解析およびリピドミクス解析を行うことにより、マクロファージの代謝機能の変化を解析する。なお、マウスとヒトとの種差による生理応答の違いを鑑み、本試験はマウスマクロファージRAW264.7細胞とヒト単球THP-1細胞をマクロファージに分化させた場合の両方を用いて解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、大学への入構制限および研究活動の制限などの措置が講じられた。これにより本研究は、初年度に予定していた実験項目をすべて終了することができなかった。次年度は、実施できなかった項目を優先に、本研究を進めていく予定である。具体的には、骨髄マクロファージ(BMDM)とは発生起源が異なる腹腔マクロファージをマウスから単離し、LPSあるいはIL-4で刺激した際の炎症応答およびAQPの発現変化を解析する。また、マウスとヒトとの種差による生理応答の違いを鑑み、ヒト単球THP-1細胞をマクロファージに分化させた場合においても同様に解析する。
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