筋萎縮性側索硬化症(ALS)におけるシグマ1受容体の遺伝子変異(E102Q)は、運動神経細胞において異常な凝集体形成や細胞毒性を引き起こす。今年度は、これまでの研究成果をもとに、コレステロール生合成経路がシグマ1受容体遺伝子変異に伴う凝集体形成や細胞毒性に関わることを明らかにした。本成果は、コレステロール生合成を標的とした新たな治療法がシグマ1受容体の遺伝子変異により生じるALS病態に対して有効であることを示唆している。 本研究課題を通して、ALSの発症においてシグマ1受容体がどのように運動神経細胞に毒性を示すのか検討してきた。研究成果として、シグマ1受容体に変異(E102Q)が生じることでコレステロールとの結合が促進し、多量体ひいては凝集体が形成され、運動神経細胞に対して毒性を示すことが明らかとなった。あわせて、シグマ1受容体アゴニストやコレステロール生合成の抑制により、ALSに見られるような変異体(E102Q)の凝集形成や細胞毒性を抑制できることが示唆された。これらの知見は、これまで知られていたコレステロールによるシグマ1受容体の発現・機能調節と、シグマ1受容体遺伝子変異によるALS発症の間に関連があることを示していた。 ALSや遠位型遺伝性運動ニューロパチーなどの運動神経細胞の障害が生じる疾患において、本課題で検討した変異(E102Q)以外にも十を超える遺伝子変異が同定されている。本課題で示唆された毒性発現機構がこれらの遺伝子変異に共通の機構なのかどうか、今後さらなる研究が進展することが期待される。
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