研究実績の概要 |
神経精神疾患を抱える患者の多くは概日リズム睡眠障害を併発し、患者本人の予後を悪化させる。しかし併発する概日リズム睡眠障害の発症・進行の仕組みや疾患との関連は謎に包まれている。薬剤性せん妄もその一つである。本研究ではケミカルバイオロジーの手法により行動スクリーニングを駆使することでせん妄を誘発する薬剤種の薬理作用を行動薬理学的に再定義することで薬剤性せん妄の疾患モデルやバイオマーカー候補の創出を目指す。ヒト神経精神疾患の表現型を小型魚類であるゼブラフィッシュで完全に再現することは難しい。しかし両者間の神経解剖学的保存性や神経伝達物質とその受容体の保存性の観点から、ヒトの生物学的特徴に関連した行動表現型をゼブラフィッシュでも定量評価可能であることが近年の研究から明らかとなってきた。そこでせん妄関連薬剤ライブラリーを構築し、ゼブラフィッシュ稚魚が示す行動リズムをはじめ様々な行動を指標にスクリーニングを実施した。結果、行動リズム関連指標に明確に影響を与える化合物を同定できなかった。同ライブラリーについて時計遺伝子Bmal1転写活性リズムへの評価を実施したが、1化合物を除いて転写リズムの位相や周期に大きく影響を与える化合物を同定できなかった。一方、一連の抗生物質が総活動量を大幅に増加させた。これら抗生物質の一部は、げっ歯類の不安様行動を評価するオープンフィールド試験を模したウェル内局在性指標において明期と暗期で居住性が逆転するなどの表現型を呈した。近年、抗生物質とせん妄との関連が臨床現場でも議論されている(Bhattacharyya et al., 2016)。従って抗生物質群の評価化合物数を増やしてさらなる検討を進めていくことで、本研究が薬剤性せん妄の疾患モデルやバイオマーカー候補の創出への足掛かりとなることが期待される。
|