NRDC欠損(Nrdc -/-)マウスは、やせ(脂肪組織の減少)、血漿中性脂肪減少、インスリン抵抗性改善、コリン欠乏食による脂肪性肝炎の抑制、体温調節異常などの表現型を示したことから、NRDCがエネルギー代謝制御に多面的に関わることが示唆されている。 申請者は特に、Nrdc -/-マウスにおいて熱放散が亢進していること、それを補うために褐色脂肪組織(BAT)における熱産生が亢進していることに着目し、脂肪組織、交感神経を含む臓器特異的NRDC欠損マウスを作製して検討したところ、NRDCの肝細胞特異的欠損マウス(LiverKO)がNrdc -/-マウスと同じ熱代謝表現型を示すことがわかった。 すなわち、高脂肪食を負荷したLiverKOは、肝細胞のみでノックアウトしたにも関わらず、褐色脂肪組織(BAT)熱産生遺伝子(UCP1、PGC1aなど)の上昇、BAT組織における脂肪蓄積量の減少が認められ、インスリン感受性が上昇していた。これらはBAT適応熱産生の亢進を示唆したが、その予想通り個体レベルの酸素消費量は増加していた。詳細に検討を進めた結果、肝臓NRDC欠損がヘパトカインの1種であるFibroblast Growth Factor 21(FGF21)発現を上昇させて、BATの熱産生を制御するという興味深い結果を得ることに成功した。 さらに、北海道大学原島研究室との共同研究で、NRDCに対するsiRNAを搭載した特殊な脂質ナノパーティクルをマウスに静脈注射することで、ウイルスを使用せずに肝臓特異的にNRDCをノックダウンさせることに成功している。この脂質ナノパーティクルによりC57BL/6Jマウスの肝臓特異的にNRDCをノックダウンすると、高脂肪食による体重増加が抑制され、耐糖能が良化することを見出し、肥満、糖尿病に対する治療薬につながる可能性が示唆された。
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