研究実績の概要 |
抗CD3抗体活性の評価; 既報によると抗CD3抗体(clone 145-2C11; 2C11)はT細胞受容体(TCR)発現量を低下させT細胞機能を抑制すると考えられているが、それ以外にアポトーシス、刺激に対する応答の欠如(Anergy)、疲弊(Exhaustion)、制御性T細胞の分化誘導など、様々な免疫抑制作用を有する可能性が示唆されている。しかし同時に抗CD3抗体はそのFc領域がFc受容体(FcR)を有するマクロファージ等の抗原提示細胞と架橋結合することで抗原提示細胞活性化、T細胞貪食および活性化、サイトカイン産生等をもたらすと考えられ、抗体投与による生体反応を複雑にしている。そこで我々はFc領域のFcR結合および補体結合能を除去したFc不活化抗体(2C11 Fc-silent; 2C11S)を用い、本来の2C11(native 2C11; 2C11N)と抗体活性を比較した。抗CD3抗体投与後のTCR架橋レクチン刺激によるサイトカイン産生能、T細胞活性化マーカーの発現、細胞増殖や各種遺伝子発現等を検討した。 実験結果; TCR架橋レクチン刺激によるサイトカイン産生能が2C11S, 2C11N投与群で有意に抑制された。2C11S, 2C11N投与後の末梢血T細胞数低下は、抗インテグリン抗体投与により回復したことから、末梢血管等へのTrappingが一因と考えられた。2C11S, 2C11NはT細胞にアポトーシスを誘導しえたがわずかであり、また明らかなAnergy, Exhaustionを誘導しなかった。以上よりTCR発現量低下がエフェクターT細胞の機能を抑制する主な機序であると考えられた。さらに2C11Sを全身性エリテマトーデス(SLE)モデルマウスに投与すると自己抗体産生、およびループス腎炎進行が抑制され、蛋白尿が改善し生命予後が延長した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
In vitroの検討ではTCR架橋レクチンであるConcanavalin A (Con A)をT細胞に添加し2C11S, 2C11Nと共培養したところ、isotype IgG抗体にCon Aを添加したコントロール群に比べて、2C11S, 2C11N投与群ではサイトカインIFN-g, IL-2の分泌量が有意に低下した。2C11S, 2C11Nは末梢血T細胞数を低下させることが知られているが、接着分子であるインテグリンLFA-1, VLA-4の中和抗体投与によりT細胞数低下が有意に回復した。これらインテグリンのリガンド発現部位を考慮すると、接着分子発現に伴う血管またはリンパ管内皮へのTrappingにより見かけ上末梢血T細胞数が低下したと考えられた。別検討では2C11S, 2C11N投与後にT細胞のアポトーシス誘導を確認できたが、大半のT細胞はアポトーシスを起こさず、一部のT細胞でのみ認められた。2C11S, 2C11NによるT細胞Anergy, Exhaustionはフローサイトメトリーを用いた表面マーカーやreal-time PCRによる関連遺伝子による検討にて、有意ではなかった。以上より、2C11S, 2C11Nは投与後に一時的に接着することにより末梢血中細胞数低下をきたし、一部でアポトーシスも引き起こしうるが、AnergyやExhaustionは誘導せずにT細胞反応を抑制することから、TCR発現量低下がその主たる免疫抑制機序であると考えられた。
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