研究実績の概要 |
心臓アセチルコリン感受性カリウムチャネル(KAChチャネル)は、それぞれ2分子のKCNJ3およびKCNJ5タンパク質のヘテロ4量体として心臓に発現しており、副交感神経刺激時に開口し、Kイオンが細胞外へ流出することで心拍数を減少させる生理作用を有する。KAChチャネルおよびその活性化に関連する遺伝子の先天的な変異によって徐脈性不整脈を発症することが報告されている。 本研究は、KAChチャネルおよびその活性化に関連する遺伝子群の種々の病原性変異について、選択的KAChチャネル阻害薬NTC-801の薬理学的解析を行い、変異によりチャネル電流が異常増加することで徐脈性不整脈を発症するKAChチャネル病に対する新規薬物治療法の可能性について検討することを目的とした。 既報のKCNJ5遺伝子変異(KCNJ5 c.303G>C, p.W101C)、およびKAChチャネルの活性化に関わる3量体Gタンパク質のGNB2遺伝子の変異(GNB2 c.155G>T, p.R52L)について、アフリカツメガエル卵母細胞での二電極膜電位固定法を用いてNTC-801の薬理学的効果をin vitroで解析した。その結果、NTC-801は野生型のみならず、これらの変異型KAChチャネルに対しても阻害効果を認めた。 また、若年発症や遺伝性が疑われる徐脈性不整脈患者からゲノム検体を収集し、次世代シーケンスによるKAChチャネル関連遺伝子の解析により検出した種々の変異について、機能ドメインと変異の位置関係による病原性予測に基づいて電気生理学的解析を行った。一定の変化を認める変異を認めたものの、疾患寄与度の大きな変異として単独で病原性を証明できるまでの機能的変化を示すデータは得られなかった。 以上から、KAChチャネル病は希少遺伝性不整脈疾患であると見込まれるが、NTC-801はその有効な新規薬剤になり得ることが示唆された。
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