脳内出血時のアラキドン酸代謝物の作用について解析した。過去の研究から、アラキドン酸代謝物のうち、5-リポキシゲナーゼ(5-lipoxygenase: 5-LOX)によって産生されるロイコトリエンB4(leukotiriene B4: LTB4)が脳内出血時に一過性に増加することで病態形成を増悪することを見出した。また、12/15-LOXはアラキドン酸だけでなく、エイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸から抗炎症性の脂質代謝物を産生することから、12/15-LOX阻害薬の薬理作用を前年度に解析したが、脳内出血病態に変化を与えなかった。そこで、本年度はモノアシルグリセロールリパーゼ(monoacylglycerol lipase: MAGL)阻害薬を用いてLTB4の上流にあるアラキドン酸の生成を阻害することが病態に与える作用を調べた。前年度結果ではミクログリア細胞株における炎症性サイトカインの産生をMAGL阻害薬JZL184が抑制することを見出した。しかしながら、脳内出血モデルマウスにおいてJZL184の効果を解析したところ、出血による病理変化に対して作用を示さなかった。したがって、脳内出血時にはアラキドン酸ではなく、その代謝物の量を調節することが重要だと考えた。これまでにLTB4と同様にアラキドン酸から生成されるリポキシンA4(lipoxin A4: LXA4)の受容体作動薬が脳内出血モデルマウスに対して治療効果を示すことを見出してきたので、さらなる解析を行ったところ、脳内出血後の神経炎症を司るミクログリアの活性化や好中球の浸潤をわずかに抑制する傾向を示した。これらの結果から、脳内出血時には12/15-LOXやMAGLといった脂質代謝酵素ではなく、下流で生成されるLTB4やLXA4のシグナル伝達を調節することが有用だと示唆された。
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