研究実績の概要 |
研究代表者は、以前の研究においてがん悪液質モデルマウスの視床下部においてアストロサイトが活性化している可能性を見出した。本研究では、がん悪液質におけるアストロサイトの活性化機構を解明するため、(1) コラーゲンビトリゲル膜を介したヒトアストロサイトとヒト微小血管内皮細胞の共培養モデル(ヒト血液脳関門モデル)の構築、(2) がん悪液質の発症・進行に関連する炎症性サイトカインがヒトアストロサイトとヒト微小血管内皮細胞の機能に与える影響の評価を行った。 (1)について、ヒト包皮由来微小血管内皮細胞(HMVEC)と同由来の線維芽細胞を共培養することで、内皮バリア機能が高く炎症応答性に優れたヒト皮膚微小血管内皮モデルを構築することに成功した。本結果を受け、HMVECとヒト胎児由来アストロサイト(HA)を共培養することで、ヒト血液脳関門モデルを構築したところ、ヒト皮膚微小血管内皮モデルと同様に顕著な内皮バリア機能の向上が認められた。また、コラーゲンビトリゲル膜またはスライドガラス上で培養したHAの分化マーカー発現を比較すると、コラーゲンビトリゲル膜上で培養した方が発現が高かった。 (2)について、構築したヒト血液脳関門モデルにがん悪液質の発症・進行に関連する炎症性サイトカイン(LIF, IL-6, IL-8)を曝露させ24時間インキュベートすると、内皮バリア機能が低下することを見出した。 以上より、コラーゲンビトリゲル膜を介してHMVECとHAを共培養したヒト血液脳関門モデルは、がん悪液質の発症・進行におけるアストロサイトの役割を解明する上で有用であることが示唆された。今後は、サイトカインによる内皮バリア機能低下が生理活性物質の透過性にどのような影響を与えるのか、またアストロサイトの細胞内シグナルの変化を解析することで、がん悪液質におけるアストロサイトの役割を明らかにする。
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