研究課題
申請者はこれまで所属研究室が確立したナイーブ型の胚性幹(ES)細胞からプライム型のエピブラスト幹細胞(EpiSC)様細胞への細胞変換系の解析、特にシングルセルRNAシークエンス解析データの情報学的解析を担当した。その結果、ナイーブ型からプライム型へ遷移する過程において、その前後の細胞集団とは大きく異なる発現プロファイルを有する細胞亜集団を見出した。この亜集団では全トランスクリプトームの3分の1程度の遺伝子の発現が減少しており、これまで報告されていないグローバルな遺伝子発現抑制現象を観測した。しかし、この現象の発生機序や生物学的意義は依然として不明である。そこで、変動遺伝子解析によりグローバルな遺伝子発現抑制現象との関与が示唆された候補遺伝子に着目し、その機能解析を通じてこの発現抑制現象の解明を目指している。令和2年度は、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集技術により候補遺伝子をノックアウトしたES細胞の樹立を試みた。しかし、明確にノックアウトされたと判断されるES細胞株を樹立することはできなかった。これは、この候補遺伝子の欠損がES細胞の自己複製や増殖に関与しているためとも考えられる。そこで、Cre-lox技術を用いたコンディショナルノックアウト(cKO)マウスをまず作製し、マウス自体の解析およびマウス個体より樹立されたES細胞を用いた解析を進めている。現在、cKOマウスを作製中で、ゲノム改変が起きているかを検討中の段階にある。並行して、候補分子のノックダウン系も構築し、この系を用いて候補分子がナイーブ型からプライム型への状態遷移過程で働くかを検討している。
3: やや遅れている
令和2年度は、候補遺伝子のノックアウト細胞、ノックアウトマウス、ノックダウン実験系等の開発と検証を行った。作製した実験系を用いて多能性幹細胞の分化プロセスにおける候補分子の役割を調べる予定であったが、年度の前半部分で在宅勤務を余儀なくされ、全般的に実験計画が遅延している。
今後、開発予定の実験系を用いて、候補分子とrXCIやプライム型幹細胞であるEpiSCへの分化の関連を解析し、多能性幹細胞におけるグローバルな遺伝子発現抑制機構の解明を目指す。
コロナ禍の規制等により、実施できなかった実験があるため、次年度使用額が生じた。次年度にその実験を行う予定である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 オープンアクセス 1件)
bioRxiv
巻: 313239 ページ: 313239-313239
10.1101/2020.09.25.313239