研究課題/領域番号 |
20K16150
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
今村 聖路 神戸大学, 医学研究科, 医学研究員 (20866074)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 概日時計 / 体内時計 / 母体免疫活性化 / セロトニン / 炎症 |
研究実績の概要 |
妊娠中の母体感染は出生児における自閉症などの発達障害リスクを増大させる。その根本的な要因は母体免疫の過剰な活性化にあると目されているが、両者の関係は未だ「風が吹けば桶屋が儲かる」状態である。このブラックボックスを解明する鍵として、発達障害児においてしばしば観察される生活サイクルの乱れに着目した。母体の免疫活性化が起点となり、脳幹部障害によるセロトニン神経系の発達異常と、体内時計の破綻が引き起こされるという考えである。本研究においては擬似ウィルス感染を誘発した周産期マウスを材料に、母体免疫・発達障害・体内時計の3者の比較解析を通して、その相関関係や因果関係の解明を狙った。 当該年度においては、まずMIAモデルマウスを作製する実験系の構築を目指した。具体的には、poly I:C を周産期マウス母体の腹腔内に注射して擬似ウィルス感染を起こし、仔マウスにおける発達障害の惹起を試みた。ところが、poly I:Cの投与によっては、母体における免疫活性化が必ずしも誘発されず、しばしば胎児の大半が死産してしまった。この原因については、マウスの系統による違いが影響するなどの説が提唱されているが、詳細は世界的にも議論の最中である。そこで当該年度においては代替案として、胎児における発達障害の誘発の直接的な引き金になると考えられているIL-17aを周産期マウス母体に対して過剰発現させる方法を模索した。免疫反応の無秩序な活性化を抑え、かつ導入遺伝を安定に発現させることが可能なCpG配列フリーの発現プラスミドベクターを用い、眼窩静脈叢投与 (retro-orbital injection) によってIL-17aをマウス個体に高発現させる実験系を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初に予定していた、poly I:Cの投与による母体免疫活性化の実験系が思うように機能しなかった。同様の知見は世界的にも多く報告されている。poly I:Cが胎児の発達障害を促進する機序や、マウス系統による違いなどについては現在もその詳細が明らかになっていない。当該年度は、代替案としてIL-17aを周産期マウス母体に対して過剰発現させる方法を模索した。この手法に関しては現在のところ実験系の構築が順調に進行しており、少なくとも発現ベクターをインジェクションしたマウス個体においてIL-17aが過剰発現することを確認できている。
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今後の研究の推進方策 |
一般に、生体へのプラスミドDNAの導入によって、DNA配列中のCpGモチーフが異物として認識され、免疫反応の活性化が起こる。そこで、本研究においてはCpGモチーフが除去されたプラスミドDNAベクターを用いることにより、無秩序な免疫活性化と導入遺伝子の発現抑制を回避する。より具体的には、このCpGモチーフ除去プラスミドベクターを用いて周産期マウス母体にIL-17aを高発現させ、免疫系を活性化する。ベクターの導入は、眼窩静脈叢投与 (retro-orbital injection) によって技術的に安定に遂行することが可能である。母体への免疫活性化の実験系が確率した暁には、当初の予定通り仔マウスにおける発達障害の誘発の有無および概日時計機構への影響を測定する。このとき、実験系が成立していることを確認するために、感染後のマウス母体および出産後の仔マウスより採血し、血中の炎症性サイトカインの濃度上昇をELISAによって検出する。採血の際にはELISAと併せてHPLC解析をおこない、血中のセロトニンなどのモノアミン量を定量する。 これらの実験によって得たMIAモデルにおける炎症・発達障害・概日リズムのデータをまとめ、コホート解析を進めることにより3者の相関関係や因果関係を推定し、体内時計の乱れを指標として発達障害を評価することの妥当性を検討する。
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