妊娠中の母体感染は出生児における自閉症などの発達障害の発症リスクを増大させる。その根本的な要因は母体免疫の過剰な活性化にあると考えられているが、両者の関係は未だ「風が吹けば桶屋が儲かる」状態である。この母体感染と出生児における発達障害との間に横たわるブラックボックスを解明する鍵として、発達障害児においてしばしば観察される生活サイクルの乱れに着目した。母体における過剰な免疫活性化が引き金となり、出生児における脳幹部障害およびセロトニン神経系の発達異常が惹起され、体内時計の破綻および睡眠・覚醒サイクルの異常が引き起こされるという考えである。本研究においては擬似ウィルス感染を誘発した周産期マウスを材料に、母体感染・発達障害の惹起・体内時計の乱れの3者の比較解析を通して、それらの相関関係や因果関係の解明を狙った。 前回までに合成二本鎖RNAアナログであるpolyI:Cの腹腔内投与に代わり、眼窩静脈叢投与 (retro-orbital injection) によってIL-17aをマウス個体に高発現させる実験系を構築した。ところが、この手法によるマウス血中でのIL-17aの発現レベルは芳しくなかった。そこで、さらなる代替案として周産期母体マウス尾静脈からの核酸の注射による遺伝子導入を試みた。本手法により、周産期母体マウスにおける血中IL-17a濃度の顕著な上昇を確認した。また、IL-17aの発現が上昇した母体より出生したマウスにおける概日性行動リズムの検出を試みた。
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