研究課題
老化細胞を選択的に死滅させる効果を持つ薬剤(セノリティックドラッグ)として同定したT-JFCR-6は、その作用機序として老化細胞で働くDNA損傷修復機構である非相同末端結合(NHEJ)を抑制することを明らかにしていた。実際にT-JFCR-6の標的分子であるBRD4は、NHEJに必須の分子XRCC4の発現制御に関与しており、XRCC4をsiRNAでノックダウンすることで細胞死が生じた。しかし、NHEJ阻害剤単独処理では老化細胞が死なないことから、NHEJ以外の別のメカニズムの関与が示唆されていた。そこで、T-JFCR-6の標的分子であるBRD4に着目をしたところ、オートファジー関連遺伝子の発現を負に調節する作用を持つことが報告されていた。また、XRCC4のsiRNAによるノックダウン実験を見直したところ、実は、siRNAをトランスフェクションする際に用いられるカチオンリピッドにオートファジーを活性化する作用があることが報告されていた。そこで、カチオンリピッドと同時にNHEJ阻害剤処理をしたところ、老化細胞に細胞死をもたらすことができた。さらに、T-JFCR-6による細胞死であるアポトーシスについても、オートファジー阻害剤を用いたところ、細胞死を部分的に抑制できることが明らかとなった。以上のことから、オートファジーがT-JFCR-6による老化細胞の除去機構に関与していることが示唆された。さらに、T-JFCR-6は、がん細胞を移植したマウスに抗がん剤であるドキソルビシンを投与することで生じる老化細胞を除去し、ドキソルビシン単剤投与よりも抗がん作用を増強できることが前回報告においてわかっていたが、この二剤投与によるがん抑制効果にはオートファジーが必要であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度では、T-JFCR-6による老化細胞除去機構として、NHEJの活性抑制とともにオートファジーの関与を示唆することができた。
T-JFCR-6がオートファジーの活性化を通じて細胞死を誘導していることが示唆されているが、オートファジーから細胞死へと至る分子メカニズムについては不明である。そこで本年度はオートファジー活性化を通じて細胞死へと至る機構について明らかにしていく。
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Nature Commun.
巻: 11 ページ: 1935
10.1038/s41467-020-15719-6, 2020.
https://www.amed.go.jp/news/seika/kenkyu/20200805.html