研究実績の概要 |
アトピー性皮膚炎(AD)は多因子が交絡して発症する皮膚慢性炎症である。申請者はこれまでの研究で、ADモデルマウスにおいて全身性の代謝に関わるホルモンタンパク質Xの異常な分泌亢進が認められることを見出しているが、この内分泌制御異常と皮膚局所の炎症との関連は明らかでなかった。本提案研究では、遺伝子欠損動物の作製・解析および生化学的解析を基に、ADにおける全身レベルでの制御(内分泌異常)と組織局所レベルでの現象(慢性炎症)との関連を説明付ける分子細胞メカニズムの解明を目指した。 まず、ADモデルマウスにおいてXは皮膚血管内皮細胞において異所性の高発現を認めていたことから、血管内皮特異的なX欠損(X-cKO)マウスを作成し、MC903塗布モデルを用いてAD病態に対する影響を調べた。その結果、このX-cKOマウスでは野生型と比較して耳介の肥厚が抑制され、表皮肥厚も抑えられていたことから、血管内皮に由来するXがADの発症に対して促進的に寄与することが明らかとなった。さらに、血清生化学検査を実施したところ、X依存性の病態を示すJak1-Spade ADモデルマウスにおいて、カルシウムイオンやカリウムイオン、無機リン、ALT等のXが代謝調節に関与する分子群が有意に増加していることが確認されたため、このような全身性の代謝異常がAD病態に寄与している可能性が示唆された。さらに、ヒトAD患者において血漿中のXの量をELISA法により測定したところ、36検体中7検体(5人に1人)で異常な高値を認めた。さらにXの血中量と血液検査データの網羅的な相関解析を行ったところ、ALT, ASTと強い正の相関を認めた一方、総コレステロールとは強い負の相関を認めた。これらの結果より、血中Xの高いAD患者亜群は肝臓の何らかの異常をもつ特徴的な病態を呈している可能性が考えられた。
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