研究課題/領域番号 |
20K16187
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
野中 敬介 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (30867809)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 副腎 / 慢性ストレス / テロメア |
研究実績の概要 |
慢性ストレスはうつ病、慢性疲労症候群など様々な疾患の発症と関連が指摘されており、その対策は現代社会において重要な課題であるが、その病態については不明な点が多い。慢性ストレス下では副腎皮質細胞内の副腎皮質ホルモンの材料である脂肪滴が枯渇し、Lipid depletion(細胞内脂質喪失)と呼ばれる組織変化を示す。本研究は慢性ストレスの病態の一端を解明し、その定量化・指標化に寄与することを目的とする。メタアナリシス解析では慢性的な精神的ストレスと末梢血単核球のテロメア短縮が弱い相関を示すことが報告されており、テロメア長が慢性ストレスの病態に関連している可能性がある。ヒトのテロメアは染色体末端に位置するTTAGGGの繰り返し塩基配列からなる非コード領域で、多くの臓器・組織において加齢や細胞分裂に伴って短縮することが知られている。これまでに、我々の研究グループは組織Q-FISH法を用いてヒト副腎皮質3層の実質細胞のテロメア長を層別に測定し、網状層>球状層>束状層の有意な序列があることを示した。 令和2年度は、病理解剖例のヒト副腎を用いてLipid depletionを示す副腎(慢性ストレス群、n=18)と病悩期間が24時間以内の超急性ストレス例の副腎(コントロール群, n=17)の皮質3層のテロメア長を測定し、慢性ストレス群では男女とも網状層のテロメア長が有意に減少していることを示した。さらに、慢性ストレスでは皮質に占める網状層細胞の割合および網状層細胞の個数がいずれも有意に増加していることも明らかにした。生前に採取した血液検体を用いて網状層から合成・分泌されるDHEA-Sの血清濃度を測定した結果、両群に有意な濃度差は認めなかった。以上の結果から、慢性ストレス下では網状層細胞が反応性に増加し、抗酸化・抗老化作用を持つDHEA-Sの分泌を維持している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
副腎皮質細胞にLipid depletion(細胞内脂質喪失)を示す慢性ストレス群と病悩期間24時間以内のコントロール群の2群について、組織Q-FISH法を用いたヒト副腎皮質3層(球状層、束状層、網状層)の層別のテロメア長解析を年度内に終了することができた。その結果、慢性ストレス群において網状層細胞が有意に増加しテロメア長が有意に短縮することが判明した。現時点で、慢性ストレス下で網状層細胞が増加する背景にどのような因子が関与しているのかは不明ではあるが、本研究は概ね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、副腎皮質細胞にLipid depletion(細胞内脂質喪失)を示す慢性ストレス群と病悩期間24時間以内のコントロール群の2群について、幹細胞マーカー(Nestinなど)、細胞老化マーカー(p16, p21など)、酸化ストレスマーカー(Heme oxygenase-1など)の発現を免疫染色やWestern blot法などを用いて解析し、慢性ストレス下で網状層細胞が増加する背景因子について検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験は予定通りに概ね進んでいる。令和2年度はコロナウイルス感染症の影響で旅費が予定よりも少なく済んだことから次年度使用額が生じた。次年度は幹細胞マーカー(Nestinなど)、細胞老化マーカー(p16, p21など)、酸化ストレスマーカー(Heme oxygenase-1など)の発現を免疫染色やWestern blot法などを用いて解析する予定である。次年度使用額はこれらの実験において使用する予定である。
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