病理解剖例のヒト副腎を用いたこれまでの研究で、副腎組織がLipid depletionを示す慢性ストレス(長期重症疾患)群とコントロール(突然死)群の皮質3層(球状層、束状層、網状層)実質細胞および髄質クロム親和性細胞のテロメア長や細胞数を測定した結果、慢性ストレス群では男女とも網状層特異的に細胞数増加およびテロメア長短縮が生じていた。最終年度は代表的な酸化ストレスマーカー(γH2AX、8OHdG)の副腎組織での発現を免疫組織化学的に検討した。その結果、慢性ストレス群では男女とも副腎組織全体にびまん性に陽性細胞が認められたことから、慢性ストレス群で酸化ストレスが増加していることが示唆された。 また、長期重症疾患の患者の生前の血清アルブミン値は、コントロール群の患者と比して男女とも有意に低く高度の低アルブミン血症を示した。副腎網状層細胞は、性ホルモンの一種であるデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)及びその硫化物DHEASを産生・分泌する。DHEAの大部分は血中でDHEASとして存在し、その90%以上はアルブミンと結合しているため、一時的に低アルブミン血症になると血中DHEAS濃度も減少することが知られている。しかし、本研究では慢性ストレス群の生前の血清DHEAS濃度は正常範囲~正常上限以上の値であった。このことから、慢性ストレス(長期重症疾患)の患者の生体ではDHEA(S)が必要とされており、その血中濃度を保つために網状層細胞の増殖亢進およびテロメア短縮が生じていることが示唆された。DHEA(S)はアンチエイジング効果など多様な作用を持つことが動物実験で示されているが、ヒトではDHEAの効果・効用は確立していない。本研究結果から、長期重症疾患患者に対するDHEAの効果・作用の解明に貢献することが期待される。上記の内容は内分泌および代謝分野の国際英文誌に掲載された。
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