遺伝子解析技術の向上とともに様々な脳腫瘍における遺伝学的背景が解明され、最新のWHO分類(2021)では組織学と遺伝学を融合させた分類法が採用された。従って、脳腫瘍病理診断は遺伝子解析の可能な医療施設でなければ行えないという新たな問題が生じている。組織学的分類法が病理診断においていまだ重要であることは言うまでもないが、その一方で腫瘍の形態学的多様性に基づく組織診断の困難さがあることも以前から指摘されており、今後、脳腫瘍病理診断を全ての医療施設で均一な水準を保ちつつ実施するには課題が多い。こうした課題を解決するべく遺伝子解析技術を普及・一般化することも重要であるが、まずすでに日常業務として行われている組織診断の精度を上げることを目的に、組織診断を困難にしている形態学的多様性の原因を探るべく、脳腫瘍の中で発生頻度の高いグリオーマに着目して変異遺伝子と表現型、腫瘍形態の関係性を、発生中の脳組織における分化階層性の観点から解析した。すでに遺伝学的検索を含めて診断されているアストロサイトーマとオリゴデンドログリオーマを抽出し、発生中の脳組織において重要な役割を果たす転写因子、具体的にはSOX9、NFIAおよびSOX10を基軸とした複数の転写因子を選択し、それぞれの発現の程度を免疫組織化学的に検討した。さらに個々の症例における表現型と腫瘍形態との関連性を解析し、症例間での差異を比較検討した。その結果、オリゴデンドログリオーマにおいて、アストロサイトの発生に重要な転写因子を発現する一群では、アストロサイトーマに類似した形態を示すことが分かり、グリオーマの遺伝学的背景と発生分化に関与する転写因子発現(表現型)、および腫瘍形態との間に関連性があることを見出した。この成果を第40回日本脳腫瘍病理学会にて発表した。
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