研究実績の概要 |
亜分類を進める余地のある充実型低分化腺癌(por1)を対象として、下記の通り研究を進めた。当初予定よりも前年度は進捗がやや遅れていたが、最終年度となる2021年度は、日常病理診断でも敷居の低いp53およびMLH1の免疫染色を施行することによって、リンパ節転移個数と有意な相関を示す分子サブタイプを同定することができた。SWI/SNF複合体の構成要素を対象とした免疫染色では、充実性増殖を示す成分での発現低下を示す症例が確認され、形態学的変化を規定している分子異常である可能性が示唆された。これはTsurutaらの先行報告(2020年, Cancer Sci誌)と部分的に一致する結果となった。最も着目していた「分子サブタイプ不明群」については、RNAシークエンス解析から発現プロファイルの特徴の解析を進め、一部の遺伝子については検証を行った。発現の高い遺伝子にサイトケラチンをコードするものがあったため、対応する免疫染色をFFPE標本で施行しスクリーニングを行ったが、分子サブタイプ不明群において該当サイトケラチンの発現が有意に高いという結果は得られなかった。治療標的に関連する融合遺伝子は検出されなかった。また、TCGA公開データベースで胃癌のゲノム異常を参照し、本亜型に比較的高頻度にみられる遺伝子増幅を抽出した。それを受け、自施設症例でのFFPE切片を用いたFISH法により遺伝子増幅の頻度検証を進めているところであり、今後も継続する。以上のように、por1胃癌の悪性度や形態学的変化に関連する分子遺伝学的異常の一部を明らかにした。
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