研究課題
脂質分解刺激に応じて機能するリポタンパク質受容体として当初同定されたlipolysis-stimulated lipoprotein receptor(以下、LSR)は、後年、細胞間接着装置の一つであるタイト結合に局在するタンパク質として再発見された。LSRは脂質代謝と細胞間接着という、一見独立した二つの機能を合わせ持つユニークなタンパク質であることが明らかとなった。我々は、子宮頸部腺がんにおけるタイト結合関連タンパク質の発現解析を行う中で、LSRが腫瘍領域で異常発現することを見出した。さらに、細胞株を用いた実験で、LSRの発現変動が、細胞間接着装置に影響を及ぼすと同時に、脂質代謝を変動させる可能性を見出した。本研究では、腫瘍で高発現するLSRが癌悪性化の過程でどのような役割を果たしているかを、とくに脂質代謝を含む癌代謝リプログラミングと細胞接着に着目して、明らかにすることとした。これまでに、子宮頸部腺がん、乳がん手術材料に対して、抗LSR抗体を用いて免疫組織化学を行い、その染色態度を評価した。その結果、非腫瘍性の頸管腺上皮、乳管上皮と比較して、それぞれのがん成分においてLSRの発現態度には有意な差が認められた。LSRの発現欠損株と対照となる細胞株で比較プロテオーム解析を行ったところ、細胞間接着に関連する遺伝子オントロジー(GO) termが複数検出された。乳がんの複数の細胞株を用いてLSRの発現解析を行ったところ、複数の薬剤曝露によりLSRの発現が増加することを確認した。現在、薬剤刺激により活性化され、LSRの発現調節を行っているシグナル経路の探索を行っている。
2: おおむね順調に進展している
頸部腺がん手術材料、乳がん手術材料を用いた抗LSR抗体による免疫組織化学的検討では、非腫瘍性上皮と比較してがん組織でLSRの発現態度に有意な差が認められ、良好な結果を得られた。LSR発現と病理組織学的因子及び予後との相関については、今後解析予定である。LSRの発現欠損細胞株を用いた比較プロテオーム解析では、3000個程度のタンパク質を同定することができた。また、有意に発現変化しているタンパク質について遺伝子オントロジー(GO)エンリッチメント解析を実施したところ、細胞間接着に関連するGOtermが複数検出された。乳がん細胞株を用いた検討では、複数の薬剤曝露でLSRの発現が増加することが確認され、現在はシグナル経路の解析を行っている。
LSR発現欠損株にLSR発現ベクターを導入し、LSR発現回復細胞株を樹立し、LSR発現に調節を受けるたんぱく質を網羅的に探る予定である。各細胞株に対してトランスクリプトーム解析、プロテオーム解析、リピドーム解析などの網羅的な解析を行う。タイト結合機能など細胞間接着に関連する機能の解析を行う。脂質などの細胞株への曝露によるLSRの発現変化を解析する予定である。
コロナウイルス感染症のまん延による緊急事態宣言と在宅勤務により、予定していた実験計画に遅れが生じた。緊急事態宣言解除後、コロナウイルス感染症の広がりを考慮しつつ、実験を行ったが、最終的に次年度使用額が生じることになった。次年度については、本年度実施できなかった実験を合わせて施行する予定である。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件)
Virchows Archiv
巻: in press ページ: in press
Cancer Science
巻: 111 ページ: 3071~3081
10.1111/cas.14524
巻: 112 ページ: 906~917
10.1111/cas.14734