研究課題/領域番号 |
20K16203
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
沼倉 里枝 帝京大学, 医学部, 助教 (20805387)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 胃癌 / iCAF / IL-6 |
研究実績の概要 |
今年度は,「胃癌にもinflammatory CAFs (iCAFs)が存在するか否か」という課題について検討するため,「線維芽細胞は胃癌細胞と接触することでiCAFsの形質を獲得する」という仮説に従って実験を行った。 マトリゲルの中で,ヒト胃癌細胞株(MKN-7),ヒト胃癌間質由来の線維芽細胞株(YS-1),および,MKN-7とYS-1との共培養を行い,培養4日目の培養上清中の IL-6蛋白濃度を比較した。当初,YS-1でのIL-6蛋白発現は低いと予想していたが,ELISAの結果,YS-1の培養上清に高濃度のIL-6蛋白が検出された。セルブロックに対する免疫組織化学でYS-1はIL-6陽性を示した。膵癌ではiCAFsの性質は接着培養で失われると報告されているが,YS-1では接着培養でもIL-6の発現は変わらず,αSMAは弱陽性を示した。以上から,YS-1は胃癌iCAFsの細胞株であり,「胃癌にもiCAFsが存在する」可能性が示唆された。これについては,他の実験でも確認し,引き続き発現解析を含めた詳細な検討を進める。 既報告において膵癌CAFsのIL-6発現は癌細胞との接触で増加するが,YS-1のIL-6蛋白濃度は,MKN-7と共培養しても増加しなかった。「線維芽細胞は癌細胞との接触によりiCAFsの形質を獲得する」という仮説に関しては,iCAFsの形質を示すYS-1とは別の線維芽細胞株でも検証する必要があると考え,新たにヒト胃線維芽細胞株を購入した。現在,MKN-7と共培養をし,IL-6の発現を比較検討中である。 尚,アルギン酸ビーズ三次元共培養に関しては,三次元共培養は成功したものの,細胞数が少ないために免疫組織化学まで至っていない。これについては手法を工夫しながら試行錯誤している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の課題は,「胃癌での iCAFsの証明」で,次年度の「iCAFsの癌幹細胞性誘導」の仮説検証と方針検討のためのマイクロアレイ解析提出が最終目標であった。実験計画は,膵癌の既報告と同様に,”癌細胞と接触することで線維芽細胞でのIL-6発現が増加する(iCAFsの形質を獲得する)”ことを想定して立てたものであったが,実験の結果,予想に反してYS-1がすでにiCAFsである可能性を示唆する所見が得られた。そのためiCAFsが出現する機序については,他の細胞株を使って改めて検討することとなった。これを踏まえて,マイクロアレイ解析については,当初の癌幹細胞性について調べる目的に加えて,iCAFsの性質や出現機序も調べる必要があると考えたため,適切な対象を選択した後に,提出することにした。 当初予期しない結果が得られ,新たな課題も生じたため,進捗状況の判断は非常に難しいが,次年度の判断材料とするマイクロアレイ解析の提出まで至っていないという意味において “やや遅れている”と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今回,胃癌iCAFsが出現する機序の解明が新たな課題となった。現在,胃線維芽細胞株を用いて,単独および共培養でのIL-6発現を比較検討中である。共培養でIL-6発現が増加すれば,胃癌iCAFsの出現は,膵癌と同様に線維芽細胞と癌細胞の接触による可能性が高いと考えられるが,増加しなかった場合には膵癌で報告されている機序とは異なる可能性も考慮し,実験計画を練る。今後は,これらの結果に基づき,適切な比較対象を選択した上で,マイクロアレイ解析を行い,iCAFsの胃癌細胞への幹細胞性誘導の仮説検証に加え,胃癌iCAFsの性質を解明していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の実験結果をふまえ,今年度中に予定していたマイクロアレイ解析を次年度に行う方針としたため,主にその金額が次年度使用額として生じた。
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