乳癌をはじめとする癌細胞では、細胞接着の減弱及び細胞極性の喪失により浸潤が引き起こされると考えられている。特に、非浸潤性乳管癌では、細胞接着の減弱化やそれに伴う細胞極性の喪失が浸潤性乳管癌に至る過程で生じていると考えられている。しかし、その分子メカニズムはこれまでほとんど明らかにされていない。我々は乳癌で発現が亢進しているヘッジホッグ関連因子かつ中心小体複製関連因子であるSTIL(SCL/TAL1 interrupting locus)がTRAF4を介してタイトジャンクションの減弱を引き起こしていると考えられる知見を得た。本研究では、STILによるタイトジャンクション減弱機構を分子細胞生物学的手法と病理組織学的解析の両面から明らかにし、病理組織診断におけるこれまでにない非浸潤性乳管癌の浸潤リスク評価法の確立を目指している。 これまでに、乳癌を含む培養細胞を用いて、STILノックダウンによりタイトジャンクションが増強することを見出している。加えて、STILはタイトジャンクション減弱に関わっているとされるTRAF4と結合することを、Proximity ligation assay(PLA法)及び免疫沈降法により確認している。これら結果より、STILがTRAF4と複合体を形成し、TRAF4をタイトジャンクションに集積させ、タイトジャンクションを減弱させていると考えられる。さらに非浸潤性乳管癌では、タイトジャンクションの減弱が、浸潤の開始と連動していると考えられる。そこで、タイトジャンクションを構成する因子の一つであるCortactinをこれら制御に関わる因子として考え、STILによるCortactin制御機構の解析を進めた。また病理組織学的解析では、微小浸潤癌や非浸潤性乳管癌を中心に、STILおよびその他の因子の発現やSTILの発現の高い症例の特徴も含め解析を進めた。
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