研究課題/領域番号 |
20K16210
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研究機関 | 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所) |
研究代表者 |
鷲見 公太 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所), その他部局等, 医師 (30716733)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 未分化肉腫 / 粘液線維肉腫 / 血管増生 / 粘液腫状間質 / 遠隔転移 / 脂肪肉腫 |
研究実績の概要 |
未分化肉腫および粘液線維肉腫と病理学的に診断された85症例を対象に組織像の再検討を行い、臨床病理学的な所見と予後との解析を行った。その結果、全生存期間にもっとも影響しているのが遠隔転移の有無であり、その他には核分裂像の数、上皮様成分の割合、Rhabdoid様細胞の有無、壊死領域の割合、粘液腫状間質の割合、周囲組織への浸潤性増生様式と関連性がみられた。浸潤性増生が目立たない群をINFa、目立つ群をINFcとし、その中間群をINFbとして評価するとINFaと比較してINFb,c群の全生存期間は良好であり、これらのグループでの粘液腫状間質の割合がINFaと比較して優位に高い傾向がみられた。粘液腫状間質の割合に関しては5%をカットオフ値として2群に分けた場合に最も全生存期間において大きな差がでることが分かった。粘液腫状間質と周囲浸潤性増生様式は粘液線維肉腫の重要な形態学的な特徴であることが再確認された。粘液線維肉腫の客観的に評価できる組織学的所見と考えている粘液腫状間質の割合、周囲浸潤性増生様式、腫瘍細胞密度、核分裂像をスコア化し、G3群に分類すると粘液線維肉腫の組織学的特徴を多く有している群では観察期間内に腫瘍死した症例はなく、非常に良好な全生存期間が得られることが分かった。この群をいわゆる粘液線維肉腫と仮定して、遺伝子変異解析を行うことで、遺伝子変異に立脚した分類を目指す。 また未分化肉腫と鑑別が必要となる脂肪肉腫の症例を用いて、その組織像及び細胞所見と分子病理的な関連性についての解析を行ない、術前診断の精度向上を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
未分化肉腫および粘液線維肉腫と病理学的に診断された85症例を対象に組織像の再検討を行い、臨床病理学的な所見と予後との解析を行った。対象症例の組織所見の再検討及びそれぞれの組織学的所見と予後と関連性の検討が終了し、粘液腫状間質と不規則血管増生が予後に関連していることが改めて確認された。この予後解析結果を元に、粘液腫状間質以外の粘液線維肉腫に特徴的な組織所見4項目のスコア化により3群に分類する方法を考案した。対象症例の中で凍結切片が利用できた25症例に関して腫瘍組織の体細胞レベルの網羅的な遺伝子変異解析を実施した。解析した症例は粘液線維肉腫のスコア化でG3が9症例、G2が3症例、G1が13症例含まれており、これらのグループ間での遺伝子変異の差異をみつけだし、それぞれの所見に関与する可能性のある遺伝子変異の抽出を試みている。また、不規則血管増生とその他の血管を含む組織切片で血管内皮マーカーを主体とする複数の免疫染色を行い、その不規則な血管形態を形成するタンパク質の検索を行なっている。
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今後の研究の推進方策 |
今回利用かのであった凍結雪片を用いて25症例の遺伝子解析を行なったが、遺伝子解析結果が膨大な情報量を有しており、この中から今回着目している粘液腫状間質や不規則血管増生などの特定の組織形に関与している遺伝子変異を抽出することに難渋している。当院は臨床研究所が併設しており、バイオインフォマティシャンを始めとする遺伝子解析経験が豊富な専門家がおり、その指導を受けながら遺伝子変異の整理を行なっている。また、過去に報告されている未分化肉腫と粘液線維肉腫の遺伝子解析結果の情報及び機能的に粘液変性や血管増生と関連性があると思われる遺伝子変異に着目し、今回解析している遺伝子変異の意義づけを行なっていく予定である。同時に行なっている免疫組織学的なタンパク発現と遺伝子変異との関連性についても検討してく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は未分化肉腫及び粘液線維肉腫の組織所見の再検討と、それぞれの臨床病理学的所見と予後との関連性の解析を行なった。それらの結果をもとに行なっている遺伝子変異解析に現在難渋しており、その後行う予定であった、ホルマリン固定パラフィン包埋切片を用いた免疫染色やFISH検討ができず、それらに使用する試薬代が使われていなかった。 今年度は、引き続き現在得られている遺伝子変異情報を様々な側面から解析し、その解析結果から今回着目している粘液腫状間質と不規則血管増生に関連すると思われる遺伝子変異やタンパク発現を、網羅的な遺伝子変異解析をしていない症例において、免疫染色・FISHやPCR検査を用いた検索を試みる。そのために、免疫染色用のガラスや抗体、FISH及びPCR関連の試薬類などの消耗品購入が必要となる。また、遺伝子変異解析で特筆すべき変異が同定された場合は、臨床病理学的な特徴とともに学会での発表や論文投稿を目指し、そのための諸経費として使用する。
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