研究課題/領域番号 |
20K16210
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研究機関 | 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所) |
研究代表者 |
鷲見 公太 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所), その他部局等, 医師 (30716733)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 脂肪肉腫 / 脂肪腫 / MDM2 / FISH / 大型異型細胞 / 細胞診 |
研究実績の概要 |
未分化肉腫を診断する上で、鑑別しなければならない腫瘍の一つに脂肪肉腫が挙げられる。今回、研究過程で脂肪肉腫と脂肪腫の細胞診標本における鑑別に着目して研究を行った。良性腫瘍である脂肪腫と、高分化型脂肪肉腫は軟部腫瘍の中では頻度が高い腫瘍である。高分化型脂肪肉腫は再発やに脱分化により未分化肉腫様の組織形態を示すこともある。適切な治療や腫瘍切除後の経過観察の判断のために鑑別診断が重要である。ホルマリン固定パラフィン包埋組織(FFPE)の蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)解析による高分化型脂肪肉腫のMDM2増幅が明らかになり、現在これらの腫瘍の鑑別に用いられている。しかし、脂肪細胞性腫瘍の鑑別診断において、低侵襲な検査で行うことが可能な細胞診所見の詳細な比較は、未だ報告されていなかった。脂肪性腫瘍の細胞診所見を検討したところ、細胞診での推定診断と組織診の一致率が比較的高いことが確認された。また、細胞診標本における大型異型細胞,多核細胞,核多形性所見は,細胞検査士間での一致率が高く、MDM2増幅と関連していることが分かった。高分化型脂肪肉腫に特異的とされる大型非定型細胞は,脂肪腫症例では観察されなかったが、感度は高くなかった。したがって,高分化型脂肪肉腫の診断を予測するためには,多核細胞や多形性を総合的に評価することが重要であると考えられた。パパニコロウ染色標本を用いた4症例のMDM2のFISH解析において、2例ではFFPEと同様の結果で再現性があったが,他の2例では背景色が強くシグナルの評価ができなかった。細胞診検体を用いたFISHによるMDM2増幅の検出精度の向上は、脂肪細胞性腫瘍の術前診断に有用であると考えられる。さらに、従来の細胞診評価と細胞診標本を用いたFISHによるMDM2解析を組み合わすことで、脂肪性腫瘍の低侵襲な術前診断予測ができる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
未分化肉腫を研究する上で、他の肉腫の情報も重要であり、特に肉腫の中で頻度の高い脂肪肉腫に着目し、その術前診断の精度向上のために、侵襲性の低い穿刺吸引細胞診で可能な細胞診標本における脂肪性腫瘍の所見の研究を行った。細胞診所見の評価とFISHによるMDM2増幅評価および、その論文構成に予想以上の時間が必要だった。 未分化肉腫の研究に関しては遺伝子解析を概ね終えることができ、遺伝子変異解析の結果と組織所見との比較検討を再度行い、予後に関係している可能性のある特異的な血管形態評価と、そのタンパク発現に関しての評価を加えた。現在、論文の投稿準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
我々が注目している未分化肉腫における特異的な血管形態がどのようにして形成されているかを解明するために、未分化肉腫のタンパク発現の異常や遺伝子変異に関して、組織像の中での局在を知る必要がある。現在までに得られている未分化肉腫のタンパク発現異常や遺伝子変異を主体として、未分化肉腫にみられる血管を形態で分類して、それらの発現異常がどのような分布でみられるのかを比較検討していく。今までは、予後解析の必要性からやや古い検体を用いた解析を中心としていたが、特異的な血管形態を有する症例の新しい検体を用いて、より詳細なタンパク発現と遺伝子変異の局在の解析を行なう予定である。腫瘍内でのタンパク発現異常と遺伝子変異の局在を知ることで、特異的な血管形態の形成に関与するタンパク質や遺伝子変異を検索し、この血管の腫瘍における役割がより鮮明にする。予後に関与する血管の形成に関わる因子を解明することで、腫瘍の血行性遠隔転移の機序の解明および治療標的検索を試みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
未分化肉腫の遺伝子変異解析を行い、得られた遺伝子変異の意義付とそれらの遺伝子変異と組織所見との関連性に関する検討と、論文投稿に際しての構成の修正に時間を要しており、研究がやや遅れているため。今年度は今までの研究で得られた、血管形態におけるタンパク発現や遺伝子変異の違いに注目し、新しい標本を用いて、タンパク発現と遺伝子変異の組織上での局在の解析を試みる。免疫組織学的に、血管内皮および血管増生に関わる抗体およびその関連資材の購入と、組織切片上での遺伝子発現の局在をみるために、組織切片から細胞の位置情報を保持したままの遺伝子発現解析を行うために、サンプルの調整と発現遺伝子検出、検出結果の解析の費用として使用する予定である。
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