研究課題
インフルエンザウイルスは季節性に流行し、毎年全人口の5-15%が感染すると言われている。慢性の肺疾患である喘息と慢性閉塞性肺疾患ではインフルエンザ感染により、急性増悪と呼ばれる臨床症状の突然の悪化がみられるが、そのメカニズムには不明な点が多い。本研究ではインフルエンザウイルスが最初に吸着する場所である上皮において、健康人、喘息と慢性閉塞性肺疾患でウイルスに対する反応性に差があるかどうか調べることで、急性増悪のメカニズムを解明することが目的である。そのために、患者から分離された気道上皮細胞を細胞の片側を空気と触れさせて約一ヶ月かけて分化させる気道オルガノイドモデルを作成して用いてきた。最終年度ではインフルエンザウイルスに対する上皮の反応性を遺伝子発現に着目して網羅的に調べた。喘息由来も慢性閉塞性肺疾患由来も、健常人由来の細胞との間に有意に発現変動する遺伝子がみられ、その遺伝子数の差は非感染状態、H1N1パンデミックウイルス感染後において、慢性閉塞性肺疾患由来の方が喘息由来よりも多かった。このことより、疾患由来上皮の反応性が健常人とは異なり、その差は慢性閉塞性肺疾患由来の上皮でより大きい可能性が示唆された。さらに、喘息由来の細胞ではヒト白血球抗原であるHLA-DRB1, HLA-DRB5, HLA-DMAの発現変動がみられ、喘息の急性増悪には免疫反応の関与が大きいと考えられた一方、慢性閉塞性肺疾患由来の細胞では細胞骨格を構成するサイトケラチンの遺伝子発現変動がみられ、細胞の分化状態や構成細胞の変化がウイルス感染に対する反応に寄与している可能性が考えられた。本研究により、喘息由来と慢性閉塞性肺疾患由来の上皮細胞には異なる特徴があることが明らかになった。急性増悪に対して各病態に応じた治療法を開発することで、より有効にウイルス感染による肺機能の低下を防げる可能性が示唆された。
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