研究課題/領域番号 |
20K16220
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大島 健司 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (40817152)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 大腸がん / がん代謝 / 浸潤 / 転移 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、D-グルタミン酸代謝酵素として報告されているD-glutamate cyclase (DGLUCY)が大腸がんの代謝動態、悪性度にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることである。DGLUCYはマウスの心筋細胞でミトコンドリアに局在することが報告されていたため、まずヒト大腸がん細胞における局在を調べたところ、ヒト大腸がん細胞においてDGLUCYはミトコンドリアマトリックス内に局在することが見いだされた。さらに、ヒト大腸がん細胞株HCT116, Lovoを用いて、DGLUCY knockout (KO)細胞を作製し解析したところ、DGLUCY KO 細胞ではミトコンドリア膜電位の低下とアスパラギン、アスパラギン酸の低下、グルタチオンの上昇が認められた。次に、ヒト大腸がん組織検体でDGLUCYの発現を免疫組織化学染色で調べたところ、大腸がんの浸潤先進部でDGLUCYの発現低下が認められた。さらに、リンパ節転移巣、遠隔転移巣では原発巣と比較し、DGLUCYの発現低下が認められた。ヒト大腸がん細胞株を用いたin vitro 機能解析で、DGLUCY KO細胞では、浸潤能、移動能の亢進が認められた。さらに、DGLUCY KO細胞ではsphere形成能の亢進が認められた。RNA-sequence解析を行い、網羅的に遺伝子発現を調べたところ、DGLUCY KO細胞では、MMPファミリーやWntファミリーなど大腸がんの転移に関わる遺伝子群の発現の上昇が認められた。そして、ミトコンドリアの膜電位を低下させるとWnt6の発現上昇と活性化βカテニンの上昇が認められた。ヌードマウスを用いたin vivo xenograft実験において、DGLUCY KO 細胞は高い肝転移能を示した。これらのことから、DGLUCYの発現の低下により、大腸がんの浸潤、転移能が上昇することが見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、D-グルタミン酸代謝酵素として報告されているD-glutamate cyclase (DGLUCY)が大腸がんの代謝動態、悪性度に及ぼす影響を明らかにすることを目的としている。本目的を達成するために、まずヒト大腸がん組織を用いたDGLUCY免疫組織化学染色を行っている。そして、ヒト大腸がん細胞を用いてDGLUCYの細胞内局在を調べ、DGLUCY KO細胞を作製して代謝動態に及ぼす影響を検索している。さらには、DGLUCYが大腸がん細胞の浸潤能、転移能に及ぼす影響をin vitro、in vivoで調べている。それらの実験結果から、DGLUCYはヒト大腸がんでミトコンドリアマトリックス内に局在し、ミトコンドリア膜電位を維持し、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタチオンの代謝に関与することが見出された。さらに、DGLUCYの発現が低下することで、大腸がんの転移を促進する遺伝子群の発現が上昇し、実際にin vitro, in vivoで大腸がん細胞の浸潤、転移が亢進することが見出された。そして、ヒト大腸がん組織検体でも浸潤先進部、リンパ節転移巣、遠隔転移巣においてDGLUCYの発現が低下することが見出された。これらの結果は、DGLUCYの発現低下により、大腸がんの浸潤、転移能が上昇することを示している。以上の経過から、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
DGLUCY KO細胞ではグルタチオンが上昇することが見出されており、DGLUCY KO細胞は化学療法に抵抗性を示す可能性が考えられる。まずはin vitroでDGLUCYががん細胞の化学療法抵抗性に寄与するかを検討する。in vitroでDGLUCYががん細胞の化学療法抵抗性に寄与する知見が得られれば、in vivoにおいてもDGLUCY KO細胞のxenograftが化学療法抵抗性を示すかを検討する。
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