研究実績の概要 |
ヒトを構成するアミノ酸はL-アミノ酸であるが、ヒトにはいくつかのD-アミノ酸代謝酵素が存在する。本研究の目的は、D-グルタミン酸代謝酵素として報告されているD-glutamate cyclase (C14orf159)が大腸がんの代謝動態、増殖能、転移能にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることである。本研究ではまず、C14orf159がヒト大腸がん細胞において、ミトコンドリアマトリックス内に局在することを見出した。さらに、C14orf159 をknockout (KO)したヒト大腸がん細胞で、ミトコンドリア膜電位の低下が認められた。次に、ヒト大腸がん組織検体でC14orf159の発現を免疫組織化学染色で調べたところ、大腸がんの浸潤先進部でC14orf159の発現が低下しており、さらに、原発巣と比較しリンパ節転移巣、遠隔転移巣で、C14orf159の発現低下が認められた。また、in vitro, in vivoでの解析において、C14orf159 KO細胞では、増殖能、転移能の亢進が認められた。これらのメカニズムの探索としてRNA-sequence解析を行い網羅的に遺伝子発現を調べたところ、C14orf159 KO細胞では、MMPファミリーやWntファミリーなど大腸がんの転移に関わる遺伝子群の発現の上昇が認められた。さらに、C14orf159の定常発現により上昇したミトコンドリアの膜電位をvalinomycinにより低下させるとWnt6の発現上昇と活性化βカテニンの上昇が認められた。これらの結果から、C14orf159が維持するミトコンドリア膜電位が大腸がんの増殖能、転移能を抑制することが示唆された。また、本研究の副次的な知見として、ミトコンドリアが大腸がん細胞のヒストンのアセチル化、特にH3K27acの維持に寄与することが見出された。
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