研究実績の概要 |
胸腺上皮性腫瘍は非常に稀な腫瘍であり、組織学的に胸腺腫と胸腺がんに大別される。そのうち胸腺がんはより悪性度が高いものの、特に希少であるため、解析はほとんど進んでおらず、有効な分子標的薬の報告もない。一方、Hippo経路分子は下流のがん遺伝子YAP1、TAZを負に制御するがん抑制遺伝子である。これまでに様々な組織においてHippo経路を破綻させるとがんが発症することが報告されている。そこで本研究では、胸腺上皮細胞において特異的にHippo経路分子を欠損させたマウスを作製・解析し、その役割を明らかにすることを目的とした。 申請者らは、(1)マウス胸腺上皮でHippo経路のエフェクター分子であるYAP1を欠損させると胸腺上皮細胞数が減少すること、(2)Hippo経路分子であるLATS1/2を二重欠損させると逆に胸腺上皮細胞数が増加し、胎生16.5日以降で扁平上皮がんの発症を認めること、(3) LATS1/2に加えてYAP1を三重欠損させると胸腺がんの発症が抑制されること、(4)成体胸腺においてLATS1/2を欠損させても発がんには至らないこと、(5)LATS以外のHippo経路分子(MST1/2, MOB1)を胸腺上皮で欠損させても発がんは認められないこと、(6)ヒト胸腺上皮性腫瘍を解析したところ、特に胸腺がんにおいて高いYAP1の活性が認められること、などを見出した。このように、Hippo経路の破綻が胸腺上皮性腫瘍の発症に重要であることが示されつつある一方で、成体胸腺においてLATS1/2を欠損させても発がんに至らない理由やMST1/2, MOB1を欠損させても表現型が現れない理由は不明である。 現在、LATS1/2/TAZ三重欠損マウスなどを作製中であり、今後これらのマウスを引き続き解析し、胸腺上皮におけるHippo経路の役割の全貌解明をめざす。
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