TREX-2複合体はmRNA核外輸送に関わる重要な分子群であり、その構成分子の一つで中心的役割を果たすGANPは様々な腫瘍(特に乳癌・B細胞リンパ腫・ホジキンリンパ腫等)の発生そのものに関与することが明らかになっている。我々は、ヒトの精巣腫瘍感受性遺伝子であるganpに着目し、ganpが思春期後型精巣奇形腫のteratomagenesisに関与することを示した。 まず、ヒト思春期後型精巣奇形腫の手術切除材料31例を用いてGANP発現を解析したところ全例で発現が上昇しており、特に表皮成分・毛嚢成分・気管支上皮成分・未分化な神経管成分といった細胞増殖の目立つ部分で発現が強いことを突き止めた。正常表皮・皮膚附属器ではGANP発現が弱かったことから、GANPは精巣奇形腫の組織に特異的発現していると考えられた。また、思春期後型精巣奇形腫の前駆病変である精細管内胚細胞腫瘍(GCNIS)においてもGANPが高発現しており、GANPの発現異常は腫瘍発生初期からteratomagenesisに影響している可能性が示唆された。 さらに、CAGプロモーター下にganp遺伝子を過剰発現させたトランスジェニックマウス(CAG-ganpトランスジェニックマウス)を作製したところ、2-3割程度の個体で雄の精巣と雌の子宮に奇形腫が発症する一方で、卵巣には発生しなかった。また、野生型マウスでは胎生期の始原生殖細胞にGANPは発現していなかったが、CAG-ganpトランスジェニックマウスではGANPが過剰発現していた。これらの結果から、CAG-ganpトランスジェニックマウスは単一遺伝子の発現制御によって正中奇形腫(midline teratoma)を発症する画期的な新規マウスモデルであり、始原生殖細胞におけるGANPの過剰発現がヒト思春期後型精巣奇形腫のteratomagenesisの重要な病因子であることを示した。
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