抗がん剤抵抗性細胞群のシングルセル解析による休止型大腸がん幹細胞の同定

2020 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 20K16230
• 研究機関: 国立研究開発法人国立がん研究センター
• 研究代表者: 神田 裕介 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 特任研究員(シニア・リサーチフェロー) (80803949)
• 研究期間 (年度): 2020-04-01 – 2023-03-31
• キーワード: 休止型がん幹細胞 / 抗がん剤抵抗性 / シングルセル解析

研究実績の概要

近年、がん細胞は不均一な集団であり、がん細胞全体のわずか数％程度の細胞群が抗がん剤抵抗性を持つ事が明らかになってきている。特に、この難治性を規定する少数の細胞群は細胞周期を休止した幹細胞性を持つ事が血液がんで報告されている。一方、大腸がんを含むほとんどの固形がんでは、休止型がん幹細胞の存在とその発現プロファイルは明らかになっておらず、抗がん剤抵抗性を克服する上で休止型がん幹細胞の詳細な解析は必要不可欠である。そこで、大腸がんにおける休止型がん幹細胞の存在と治療抵抗性への役割を解明する目的で、ドキシサイクリンによりヒストン2B(H2B)-EGFP融合タンパクが誘導される大腸がん患者由来オルガノイド培養系を構築した。H2B-EGFPを一過的に発現させると、分裂毎にH2B-EGFPが希釈され蛍光強度が低下するため、長期間培養しても分裂回数の少ないH2B-EGFPラベル保持細胞は休止型がん細胞と同定できる。これまでに、このオルガノイド培養系を用いて、H2B-EGFP高発現細胞は低発現細胞よりもIrinotecanに対して高い抵抗性を示す事を見出してきた。今年度は、このオルガノイドからH2B-EGFP高発現/低発現細胞をFACSにより単一細胞を回収した後にシングルセルqPCR解析を実施した。その結果、H2B-EGFPを高発現する細胞群の中から、大腸のがん幹細胞マーカーのLGR5を発現する抗がん剤抵抗性の休止型がん幹細胞を同定した。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

シングルセル解析により休止型がん幹細胞を同定する事ができたため、概ね順調であると考える。

今後の研究の推進方策

次年度は、当初の研究実施計画に従い、別の抗がん剤を添加した際のシングルセル解析を行うとともに抗がん剤抵抗性を担う遺伝子の絞り込みを行う予定である。

次年度使用額が生じた理由

消耗品を予定額より安価に購入できたため次年度使用額が生じた。次年度使用額と翌年度分の助成金を合わせて消耗品費等に使用する。

研究成果

• [雑誌論文] Slow-cycling cancer stem cells regulate progression and chemoresistance in colon cancer (2020)
  • 著者名/発表者名: Daisuke Shiokawa, Hiroaki Sakai, Hirokazu Ohata, Toshiaki Miyazaki, Yusuke Kanda, Shigeki Sekine, Daichi Narushima, Masahito Hosokawa, Mamoru Kato, Yutaka Suzuki, Haruko Takeyama, Hideki Kambara, Hitoshi Nakagama, Koji Okamoto
  • 雑誌名: Cancer Research 巻: 80 ページ: 4451-4464
  • DOI: 10.1158/0008-5472.CAN-20-0378
  • 査読あり
• [雑誌論文] Loss of the cystine/glutamate antiporter in melanoma abrogates tumor metastasis and markedly increases survival rates of mice (2020)
  • 著者名/発表者名: Mami Sato, Kunishige Onuma, Mio Domon, Shun Hasegawa, Ami Suzuki, Ryosuke Kusumi, Remi Hino, Nahoko Kakihara, Yusuke Kanda, Mitsuhiko Osaki, Junichi Hamada, Shiro Bannai, Regina Feederle, Katalin Buday, Jose Pedro Friedmann Angeli, Bettina Proneth, Marcus Conrad, Futoshi Okada, Hideyo Sato
  • 雑誌名: International Journal of Cancer 巻: 147 ページ: 3224-3235
  • DOI: 10.1002/ijc.33262
  • 査読あり / 国際共著
• [学会発表] 抗がん剤抵抗性の休止型大腸がん幹細胞を標的とした光免疫療法の構築 (2020)
  • 著者名/発表者名: 神田 裕介、塩川 大介、岡本 康司
  • 学会等名: 第79回日本癌学会学術総会
  • 招待講演
• [学会発表] 凍結がん検体の1 細胞核解析による卵巣明細胞癌の治療抵抗性細胞ネットワークの同定 (2020)
  • 著者名/発表者名: 森 裕太郎、山脇 芳、石黒 竜也、吉原 弘祐、神田 裕介、塩川 大介、榎本 隆之、岡本 康司
  • 学会等名: 第79回日本癌学会学術総会