ピロリ菌はヒトの胃に感染する細菌で、胃炎などの消化器疾患を引き起こす。その一方でヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)のリポ多糖(LPS)は低いエンドトキシン活性しか示さない。また、胃粘膜上皮細胞ではLPS受容体のToll like receptor 4(TLR4)の発現が低い。そこで本研究では、ピロリ菌の保有するsmall RNA(sRNA)に着目し、RNA受容体であるTLR3を介した胃炎症メカニズムの解明を目指す。令和2年度は、下記項目を実施した。 1)ピロリ菌由来のトータルsRNAを胃の細胞に直接添加すると、炎症反応が惹起されることを確認した。ピロリ菌のトータルsRNAを抽出し、胃粘膜上皮細胞にふりかけ、ウェスタンブロッティングを行なった。その結果、double-stranded RNA(dsRNA)受容体であるTLR3依存的に炎症が引き起こされることを見出した。しかしながら、ピロリ菌のsRNAはsingle-stranded RNA(ssRNA)のため、どのsRNAの二次構造領域がdsRNAとしてTLR3に認識されるかを同定する予定である。 2)TLR3とTLR4の発現量を複数の胃粘膜上皮細胞を用いてリアルタイムPCRで解析した。これまでの報告と同様に胃粘膜上皮細胞でのTLR3の発現量はTLR4に比べて発現量が高い、もしくは同程度であることを確認した。 3)ピロリ菌の細胞外に存在するsRNAをピロリ菌細胞培養上清液を用いてリアルタイムPCRで解析したところ、複数のsRNAを同定することに成功した。同定されたsRNAは多くのピロリ菌で保存されていることを確認している。 以上の結果から、ピロリ菌による胃炎には、ピロリ菌の保有するsRNAおよび胃粘膜上皮細胞のTLR3が寄与することが明らかになった。
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