ヘリコバクター・ピロリ (ピロリ菌)は世界人口の約半数に感染する細菌で、胃がんや胃十二指腸潰瘍などの消化器疾患を引き起こす大規模感染症である。その一方でピロリ菌のリポ多糖(LPS)は低いエンドトキシン活性しか示さない。さらに、胃粘膜上皮細胞ではLPS受容体のToll like receptor 4(TLR4)の発現が低く、ピロリ菌による胃炎症メカニズムは不明な点が多く、混沌としているのが現状である。そこで本研究課題では、ピロリ菌の保有するsmall RNA(sRNA)による胃粘膜上皮細胞のdouble-stranded RNA受容体 (TLR3)を介した胃炎症メカニズムの解明を目指している。 当該年度では、ピロリ菌由来のsRNAを同定し、バイオインフォマティクス解析により二次構造を予測した。また、それら全てのsRNAの発現量を解析した。これらの結果および昨年度までに実施して得られた研究結果から、ピロリ菌の胃炎に関与する病原性sRNAを複数見出した。これから、病原性sRNA欠損株を作製し、胃粘膜上皮細胞およびマウスを用いて感染実験を実施した。その結果、病原性sRNA-XおよびsRNA-Zが有意に胃炎発症に関与していることが分かった。さらに臨床分離株を用いて解析を行ったところ、sRNA-Xの発現量と臨床所見は相関することが見出された。以上の結果から、ピロリ菌による胃炎には、ピロリ菌の保有する病原性sRNAが寄与することが明らかになった。
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