研究課題
コレラ菌(Vibrio cholerae)に代表される腸管系病原菌の多くは、衛生環境の悪い地域でしばしばアウトブレークが起きる。コレラ菌は汚染水や食べ物を介してヒトに侵入し、小腸まで達すると、IV型線毛と呼称される糸状のタンパク質を菌体表面に発現させる。この線毛は、小腸上皮細胞への菌体の付着と定着に関わると考えられている。IV型線毛の働きで小腸にコロニー形成したコレラ菌は、コレラ毒素を産生し激しい下痢を引き起こす。このように、コレラ菌の腸管への付着・定着過程は、病原性発現の第一ステップであることから、この過程を阻害することができれば、コレラ菌を病原性を発現させることなく排除できる。一般に抗生物質は、病原菌だけでなく有用な腸内細菌にも悪影響を与えるほか、選択圧による病原菌の抗生物質耐性化を引き起こすことから、新たな薬剤が求められている。この阻害剤は既存の抗生物質などの薬剤とは全く異なる次世代の治療法・感染症予防となる可能性を有している。これまでの研究から、コレラ菌の腸管定着には、IV型線毛だけでなく、菌体外に分泌される可溶性定着因子も必要であることが明らかとなった。また、可溶性定着因子は、IV型線毛の先端部にのみ存在するマイナーピリンと呼ばれる線毛構成タンパク質と結合することを明らかとし、これら2つのタンパク質の複合体構造を得ることに成功していた。本年度は、等温滴定型熱量計と超遠心分析装置、質量分析装置を使用した相互作用解析の結果、可溶性定着因子のN末端部分がマイナーピリンとの結合に重要であることが明らかとした。この結果と、複合体結晶構造から、可溶性定着因子は、線毛先端部のマイナーピリンに結合し、線毛の伸長にともなって菌体外に分泌されることが明らかとなった。
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Science Advances
巻: 8 ページ: 1, 11
10.1126/sciadv.abo3013