本研究は、ブドウ球菌エンテロトキシン(SE)の嘔吐発現の分子機構の解明を目的とし、小型霊長類のコモンマーモセットを用いることで宿主側の嘔吐に関わる受容体の同定を試みた。腸管粘膜下組織肥満細胞において、SEが結合し、脱顆粒を引き起こす受容体となっている分子を特定するために、本年度も検索を継続した。in silicoにおいてSEAとの相互作用が観察された脱顆粒関連分子について、far western blottingではSEとの結合が見られた。しかしながら、当該分子の培養細胞へのトランスフェクションではSEと高い親和性は見られず、SEとの相互作用および脱顆粒誘起への関与は不明であった。また、SEによる肥満細胞脱顆粒に関わる受容体およびシグナル伝達経路を解明するために、SEと相互作用する膜タンパク質の検索を継続して行ったが同定には至らなかった。 SE受容体ノックダウンまたはノックアウトコモンマーモセットを作出し、標的分子を欠損した個体を用いて嘔吐メカニズムを解析する予定であったため、本研究で使用するコモンマーモセットは昨年度に続いて本年度も頭数の増加に努めたが、飼育環境の変化後、コモンマーモセット頭数の増加に至らず遺伝子ノックダウンおよびノックアウトはできなかった。 本研究課題の最終的な目標である霊長類における嘔吐発症メカニズムの全容解明には、SE受容体の同定およびコモンマーモセットの安定した繁殖と解析が必須であったが、いずれも達成できなかった。
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