研究課題/領域番号 |
20K16251
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
楊 佳約 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科(藤沢), 特任助教 (10804825)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 腸内細菌 / 腸管粘膜 / 大腸炎 |
研究実績の概要 |
宿主の腸内に生息する多様な腸内細菌の生産する代謝物質は人の健康維持と疾病の発症に影響を及ぼしていることが報告されている。腸管表面には粘膜層が存在し、腸管粘膜に局在する腸内細菌は宿主健康により強い影響を与えることが近年の研究で示唆されているが、その知見はまだ限られている。本研究では腸管粘膜層付近で宿主と相互作用する細菌の機能及び宿主と関係性を明らかにすることを目的としている。本研究はこれまでに腸管粘膜に局在する新規の細菌を同定した。また、当該細菌がデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)大腸炎誘導マウスにおいて大腸炎誘導後に存在割合が減少することを明らかにした。DSS大腸炎モデルは近年増加している炎症性腸疾患(IBD)のマウスモデルであり、腸管免疫の破綻によって引き起こされる。したがって、当該細菌は腸管免疫と関連がある菌であることが考えられる。2020年度ではDSS大腸炎モデルマウスを用い、当該細菌の標準菌株を2株それぞれマウスに経口投与を行い、DSSによる大腸炎誘導期と水に切れ変えた際の回復期において宿主に与える影響を調べた。その結果、当該細菌の標準菌株を投与することによって、大腸炎の回復期においてその回復が促進されることが示された。当該細菌はある特定の代謝物質を生産することで知られており、当該代謝物質をマウスに投与して同様な実験を行った。その結果、投与群で同様に大腸炎からの回復が見られ、回復促進は当該細菌の代謝物質によるものである可能性が示唆された。今後はそのメカニズムをさらに明らかにする予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は腸管粘膜に局在する細菌を新規に同定し、当該細菌がDSS大腸炎誘導マウスにおいて存在割合が減少することを明らかにした。2020年度ではDSS大腸炎誘導マウスを用い、当該細菌の腸管内における役割を調べた。当該細菌の標準菌株を2株それぞれマウスに経口投与を行い、DSSによる大腸炎誘導期と水に切り変えた際の回復期においてマウスに与える影響を調べた。その結果、当該細菌の標準菌株を投与されたマウスにおいて、水に切り変えた際の回復期に菌未投与群と比較して体重が有意に回復した。したがって、当該細菌は大腸炎からの回復を促進する効果があることが示された。当該細菌はある特徴的代謝物質を生産することで知られている。当該代謝物質をDSS大腸炎誘導マウスに投与すると当該細菌と同様な大腸炎回復促進効果が見られた。したがって、当該細菌による大腸炎回復促進効果は当該代謝物質によるものであることが考えられる。 本研究は宿主腸管粘膜に局在する細菌を発見し、当該細菌が大腸炎回復促進効果を持つことを示した。さらに、その効果は当該細菌が生産する代謝物質によるものであることを示唆することができ、作用機序に一歩迫ることができた。したがって本研究は当初の計画以上に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は昨年度までに宿主腸管粘膜に局在する細菌を新規に同定し、当該細菌が大腸炎回復促進効果を持つことを示した。さらに、その効果は当該細菌が生産する代謝物質によるものであることを示唆することができた。次年度では当該細菌による大腸炎回復促進効果は当該細菌が生産する代謝物質によるものであることのさらなる検証、さらにその作用機序の解析を行う。当該代謝物質は宿主の腸管に発現する受容体のリガンドであることが報告されている。したがって当該受容体のノックアウトマウスを用いてDSS大腸炎実験を行い、その回復促進効果の取り消しの有無を確認するによって、当該細菌による大腸炎回復促進効果が当該代謝物質によるものであることを検証できると考えられる。さらに、RNA-Seqによって作用機序の解析を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の試験計画より少ない実験量で期待できる研究成果が得られたため、次年度使用額が生じた。次年度は当初の試験計画通り腸管粘膜に局在する細菌の実験に使用する。
|